2




あ、蝉が鳴り始めた。もうそんな鳴り季節か。
よくよく考えたら一年の半分は終わってた。あー早い早い。


「…ゆーたー」

「はいはい」

こてん、と悠太に寄りかかれば同じ洗濯物の匂いがして安心した。
うん、やっぱりお兄さんに限りますな(あっちの意味ではなく)

なにしてんの、と悠太の手元を見れば、あら。大学の情報誌。
もう、そんな季節ですか。



2.side:裕希



「ねえゆーた。帰り本屋行きたい」

「あーオレも」

「え、珍しい」

「うん買いたいものが」

「まさかエロ本〜?スケベ〜」

「………違います」


本屋について、オレはお目当てのアニメージャを手にした。ほう、今月はどんなんかね。わくわくしながらまずは立ち読み。
店員さんが睨んでくるけどそんなの気にしない。

うーん、と熟読していると悠太が肩に顔をのっけるのが分かった。

「もう買い終わったけど裕希、まだ?」

「いやー悩むよね、これ。オレの好きなアニメ載ってるけど少ないんだよね。」

「買っちゃえばいいじゃん」

「んんでもなあ」

「お母さんから食パン買ってきてって言われてるでしょ、早く決めて」

「いやでもですね…」

本当に悩む。これを買うんだったら来週出るゲームの資金にしたほうが…。いや、でもこれも少ないながらになかなかいいし…。新アニメ情報いっぱいだしなあ。

「そういえば悠太はなに買ったの」

「ああオレ?参考書」

「参考書?なに勉強でもすんの」

「いやちょっとね」

「ふーん」


がさり、と袋から見えたのは英語の参考書。
大学受験に勝つ!!とか書かれてるその参考書に嫌気がさした。
今日の朝の要もだけど、悠太までもが。

なんだかアニメージャを読む気が失せたから棚に戻した。春も進路どうしようって言ってるし。自分、も考えなきゃなのか。

「買わないの?」

「…うん」

「?…じゃあ帰ろっか」


無言で悠太のシャツの裾を引っ張りながら本屋を出た。
双子だからずっと一緒だったけど、これからどうなるんだろう。悠太だけじゃない。要も、春も、千鶴も。やっぱり、バラバラになるんだろうか。


スーパーに寄って、食パン買って、いつもなら食べる試食は今日は食べる気がしなかった。悠太ははむはむとウィンナーの試食してたけど。



ああ、陽が落ちるの、遅くなったな。まだこんなに明るい。
また蝉が鳴ってるのが聞こえて、去年の夏を思い出した。

なんか夕飯もいつもよりも食べれなくて。


「裕希、体調悪い?」

「は?」

「いやなんか元気ないし。朝の要の夏バテがうつったのかなー、とか」

「いやいや要からうつされたらたまりません」

「まあ、そうだね」

「悠太はさあ」

「ん?」

ほらまた見てる。大学のやつ。

「大学、とかどうするの」

「あーこれ?要に借りたんだけどさ、大学っていっぱいあるよねー」

「うん。オレ全然決めてない」

「いやオレも」


やっぱり。別々の方向に行くのかな。
全員が一緒のことやるのは、高校生まで、なのか。


「まあでも薬学部に興味はある」

「…ふーん」

「裕希は?どっかないの?」

「ない。アニメしか」

「そうだねえ、お兄ちゃん的には専門学校より大学を出てほしいな」

「そ、うですね」

「まあこの本にいっぱい載ってるし、見とけば?」

「えーやだよーめんどくさい」

「めんどくさいって言っても…そろそろ夏休み前にはだいたい決めとかないと」

「…んー」

「とりあえず、はい」


受け取った冊子は結構重くて、それと同時にオレの心も重くなった。

部屋に戻ってパラパラ見てみると、色々ごちゃごちゃありすぎて訳がわからない。
とりあえず悠太が言ってた薬学部、か。


「……わかんないよ」









「ゆっきーっ!!」

どーんとぶつかってきたのは千鶴。
相変わらず触角は元気だ。ラーメンがあーだこーだ言ってるけど聞こえない。

「ちょっとゆっきー聞いてるっ?」

「ねむい」

「はー?聞いてねーじゃーん!」

昨日は全然寝れなかった。これからのこととか10年後とか考えてたら寝れなかったんだ。

「まあ確かに暑かったもんな!夜!」

「夏休み…か」

「おっ!そろそろ祭りの季節だぜゆっきー!花火花火!」

「お祭りと花火混ざってますよ千鶴さん」

「えぇいどっちも一緒じゃー!」



あ、また蝉が近くで聞こえる。

「ねえねえっ、オープンキャンパスなに行くー?」

「わたし立都大学とか、メリス女子大とかかなあ〜」

「あっ、わたしもメリス女子大行く!一緒いこうよ!」

「ほんと?一緒行く人いて良かった〜!」


なんでだろう、こうも悩んでる時に絶妙のタイミングでこんな話題が聞こえるとは。



「ほえ〜オープンキャンパスかー、んー東大のでも行っちゃいます?!浅羽さんっ!」

「えー東大なんて千鶴が入ろうとしたらまずセコムが鳴りまくるよね」

「なんだとゴラァア!普通に入れるわボケェ!ふっこの千鶴様がいっちょ見学してやっかな〜」


「東大のオープンキャンパス行くの?」


「あ、東先生。冗談ですよこんな小学生まず東大の土地にも入れませんから」

「だっから入れるっつーの!!」

「あははは。まあオープンキャンパス行ったらいい刺激受けるかもね」

「東先生も行きましたか?高校生のとき」

「ん?一応行ったよ。どこか行っておいたほうが色々分かるしいいんじゃないかな」

「そうだと言ってもねえ〜学部も全然分かんないっすよ先生ぇ〜」

「そんな深く考えずにさ、ちょっとでも興味あることでいいんだよ。気楽に考えたらいいよ。じゃ、用事あるから、頑張って」



ちょっとでも、か。


「あーんゆっきーどうするよー」

「ドイツにでも帰れば?」

「ひっ、ひどいっ!」

「あ、でもなんかドイツ語の学科もあるみたい」

「なにっ!?オレの特技を生かすべき大学があるのか?!」




なんだ、案外、簡単に見つかる、ものかも。
それに。




「おい帰るぞバカザルども」

「ちょっと一緒にしないでよ千鶴と」

「一緒だろーがアホ」

「裕希くん、千鶴くん、今日はアイスを食べて帰りましょう!」

「えっまじで!ガリガリ君食いてー!」

「いやそこはガツンとみかんでしょう」

「ゆうたんナイスアイディア!」

「あーうるせーよてめぇら!」

「じゃあ要っちはアイスなしだなっ!」

「ちょっ、なに言ってんだこのバカザル…!」


今日もぎゃあぎゃあとうるさい。
だけど、僕らの関係がそんなに簡単に崩れるようには思えない。
改めて感じる大切な、仲間なのかもしれない。


「裕希、行くよ?」

「あ、うん」




さあ、夏が始まった。







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -