ただの変態話




七月に入り、本格的に夏のような暑さが見えてきた。
まだ梅雨明けしていないからか蒸し暑さは残っているのだが。
この季節は無駄に体力を使うからあまり好きではない。だからなるべく日陰へ、なるべく涼しい場所を求めて過ごす日々になるのだ。
それも現世に来てから現世のほうがとても暑く感じる。所謂地球温暖化、というやつだろうか。困ったものだ。
時刻は昼の三時をまわったところ。ちょうど空座高校の生徒が帰ってくる時間帯だ。はしゃぎながらもうすぐ夏休みだね、どこに行く?などというさぞ楽しそうな声が聞こえてきた。
暑いっすねえ、今日は何回呟いただろう。夏の口癖は暑い、暑い、暑い。自分だって本来なら言いたくない。
大きなため息をつき、そろそろ夏バージョンの服装にでもしようかと考えている時に、一応は駄菓子屋だ、店の扉ががらり、と開いた。
ああ、久しぶりのお客さんだ。今の空座町の担当の死神サンは誰でしたっけ。それとも普通の一般人だろうか。
すいませーん、どうやら女性のようだ。はいはいと返事をしつつぺったぺたと裸足で客のもとへと歩いた。
見れば、前者のほうだった。死神サン。

「えぇと、臨時で空座町担当になりました、みょうじです。あの、涅隊長からこれを渡すように、と…」

わたわたと一生懸命話す彼女は新入りのように見えた。もしかしたら何か研修かもしれない。
涅サンから貰ったものは、多分前に頼んでいた物質だろう。なんだかんだと彼は色々と物を提供してくれる。もちろん、内密で。

「ああ、そんなんスか。じゃあ君は十二番隊の隊員サン?」

「あ、はい。十二番隊の第四席です」

新入りかと勝手に勘違いした自分に少し叱った。人を見た目で判断してはならない、と。

「まあなんですから…上がってくださいな」

「ありがとうございます」

話を聞いていると、彼女は涅サンと仲が良いとか。これも人を見た目で判断してはならない、という根拠になった。技術開発局にも所属していて、色々と研究を手伝っているとか。だから一応自分の存在も知っているらしい。とはいえ、この今のアタシの姿には多少不信感があるようだが。どうやら彼女は自分の感情に素直らしい。


「えと、じゃあそろそろ私は」

「ああ、涅サンからの手紙で君はアタシのところに泊まるように、と。」

「ええ?」

「過保護ッスねえ…」

それと同時に、絶対に手を出すなよ、と言われたようなものだった。
まあ滞在期間はもともと少ない。たかが二週間。
嗚呼、最近は日が落ちるのが遅くなった。


彼女が来てから三日が過ぎた。夜一さん(猫化したもの)とふにゃふにゃとくつろいでいる姿がなんとも愛らしい。
今日の任務は終わったらしく、ごろごろと夜一さんと戯れていた。
一生懸命会話しようとしているところがまた笑えた。

「ごろにゃーん?」
「みゃー」
「可愛いねえ、にゃんこ」
「みゃー」
「にゃーんごろごろ」

「なーにしてんスか?」

笑いを堪えながら聞くと、顔を真っ赤にしながら猫と頑張って会話していました、と。
アタシにもかまってくださいな、そう言えばまだ恥ずかしいのか顔を下に向けたままこくんと頷いた。

このままだと、涅サンに殺されかねない、と思った。
彼女の柔らかな雰囲気は嫌でもアタシの心に入ってくるのだ。そのくせ、彼女は無意識。そう、無意識なのだ。
アタシの服の袖を掴んだり、眠いと言って寄っかかってきたり(そのあとすぐに恥ずかしがって飛び上がる)、朝起こしにくる時もがばっと布団の上にダイブしてきたり。
それはもう理性がぶっ飛びそうなくらいで。

「なまえさん、こういうこと誰にでもやってるんスか…」


そしてアタシが思った通り、彼女に手を出したらこれから資料をあげるどころか暴露され、更には彼女と会えなくするらしい。ああ、なんて恐ろしいんだ。


しかし、こうやって悶々としている自分とは逆に、彼女は特に何も感じないらしい。彼氏と呼べる存在はいないし、男には慣れていないし、そもそも少し苦手なんだとか。

安心したと同時に、自分は対象外という現実にがっかりした。こう言われてしまったのだ。可愛い可愛い笑顔で、

「浦原さんは、お父さんみたい!」


ああもう、今すぐにでも押し倒して自分はお父さんなんかじゃないことを知らしめてやりたい。…だけどもちろんそんなことは出来ないので、アタシはただのへたれなのである。
しかも、本当にジン太と雨のお父さんだと思われていた。嫌っすよぉ、アタシとなまえさんの子供だったらきっと彼女によく似てさぞ可愛らしい子供ができるんでしょうけど。おっと、度が過ぎた妄想っすね。

とまあ、仕方がないので、お父さんのふりをした狼となってなまえさんと話している。なんだか本当になまえさんが可愛い可愛い赤ずきんの女の子に見えてきて、そろそろ理性が切れて食べてしまうのではないか、と思った。

なまえさんが来て随分馴染んできた頃、なまえさんはいま、きゃっきゃっとジン太と雨と水遊びをしている。できることならばあの中に入ってアタシも一緒に水遊びをしたい。願わくは、彼女の下着がちらりとでも見れたなら…。考えただけで体温が上昇する。ただでさえ暑いのに、彼女のせいで熱が上がってしまうのだ。

しかし、一応自分はお父さんな立場なのだ。ここで変に加わってなまえさんに触れるなどしたら鼻血どころか倒れてしまうかもしれない。そうだ、ジン太や雨の教育にも悪いに違いない、ここは抑えなければならないんだ…!!!

「暑いッスねぇ…」

「浦原さん?大丈夫ですか?」

「大丈夫ッスよぉ〜、なまえさん水遊び楽しいッスか?」

「あ、はい!浦原さんもやります?水遊び」

「えええ…アタシは大人ですからねぇ、大丈夫です、耐えられるんです、色々と」

「…そうなんですか?」

きょとんとアタシを見つめて話すなまえさんはやっぱり赤ずきんの少女にしか見えなかった。実はね、こうやって大人ぶっているけれども、本当は食べちゃいたいんですよ、なまえさん。 なんて言えるはずもなく。(言ったとしたら完全に嫌われるだろう)


なまえさんの現世の滞在時間、残り3日。
果たして自分を抑えることができるのか?

まあ、この茹だるような暑さの中だ。何が起こるか分からないのである。

あ。いまなまえさんのパンツ…見えちゃいました。このドキドキと胸が高鳴る高揚感、久しぶりッス。




・・・

すいませんっしたァァアアア(土下座)
冬に夏のを書くという荒業