ありがとう


今日は良い天気だ
事件も終わり、ここのところ毎日が本当に穏やかだ

しかし自分が所属している五番隊
隊長がいないままなのだ


「次は誰が入るのかなあー」


いつものように五番隊隊舎を掃除する
するとある隊士が私に走り寄ってきた


「みょうじさん!隊長が新しく入るみたいですよ!」


「え?誰?」


「それが、それはまだ分からないんです」


「えぇえ…」



ようやく決まった隊長なのだ
きっとどこかの副隊長や席官が昇進するのだろう


「でも良かったですよね!やっと隊長が決まって!」


「…そうね」


こうやってまた平穏な日々が続くのだろう


午後、私達五番隊は集められた
ざわざわとしている中、スパーンと勢いよく扉が開いた


白い、隊長服
そして、金色の髪色



「………うそ……」


ざわめきがよりいっそう増した
嘘、どうして彼は此処にいるのだろう?
どうして…


「なんやざわざわうるさいのう」

ボリボリと頭を掻きながら私達を見渡す
長かった髪はバッサリ切られて綺麗にそろっている


「どーもぉ、俺が新しい隊長さんですーよろしゅうしてなー」

かったるそうにだりんと頭を下げて挨拶をする彼

「あ、せや。名前言ってなかったなァ。顔見知りが随分減ってるんやもんな、平子真子言いますよろしくーぅ」

まただりんと頭を下げる




帰ってきた、彼が






「ちょっと!し、真子!」

挨拶が終わって廊下を歩く彼を引き留める
なんや、と振り返る彼は何もなかったかのような顔をして私を見る
昔の彼と重なったと同時に、悲しいのか嬉しいのか分からない感情が突然に込み上げてきて涙がこぼれ落ちた


「な!どうして泣くんや!」

オロオロと両手を振る真子がぼやけて見える

「っ…、どうしてっ…」


「……」


「どうして連絡してくんなかったのよぉっ……」


感情が止まらない
涙が止まらないのだ

すると真子はふわりと私を抱き締めた



「ごめんな、悪かったな」


「〜〜っ!!」


悪かったで済んだらいいのよ、馬鹿!!!
そう言いたかったが、嗚咽がひどくなるばかりで言葉が出てこない

真子は抱き締めたまま小さくごめんな、と繰り返した



「…なまえ」


「…ふぇっ…な…によ…」


「顔あげ」


ふと言われた通りに顔を上げると真子は私の涙を細い指で拭った

見慣れない短い髪に触れると、少しバツが悪そうに言った

「俺の自慢な長い髪も切ってもーた。なまえ好きやったもんなあ」

「……べ、つに…」


真子は私の首元に唇を寄せ、そこに独占欲の印をつけた
視線が絡み合い、ゆっくりと唇が近付く

軽く触れ合った唇はしっとり濡れていて、百年越しのキスは泣きたくなるようなものだった



「なまえ、待っててくれてありがとうな」

こくんと頷けば耳元で囁いた



愛してるで





         ありがとう