大好きでした


もうすぐ春だ
弥生に入り、風はまだ冷たいが優しい陽の明かりが包んでくれる
昼下がりの晴天は私をなんだか嬉しくさせるのだ

何一つ雲がなくて、梅がちらほら咲いている
何気ない幸せが好きだった


大好きでした




また彼のいない春がやってきた
穏やかに、確実に春が来るのだ

もう、百年は経つのだろう



百年の間に私は少しは変わったのだろうか
容姿は衰えることはない。髪を切ったくらいだ

彼への想いは、忘れよう忘れようと思えば思うほど消えないものだった

ふと頭の片隅から彼の声が、姿が見えてくるのだ



初めは記憶と現実を重ね合わせては涙を流していた
何度も何度も彼の名前を叫んだ
届かないと分かっていても、泣かずにはいられなかった


今では感情を取り乱す事はなくなったものの、時間があの時から止まっているようだった

自分だけ、あの時から動けない
彼の残したモノたちを手放せない


こんな私を見たら彼は呆れる
きっと叱る

でもそれを待っている自分がいるのだ


喜助さん、貴方は元気にしているだろうか?
ちゃんと生きているだろうか
幸せだろうか



「私は……何も、動けてないです」




あの百年前の位置から動けない




あの百年前の約束から離れられない



「一緒に…桜を見るって約束してたのに」



またひらりひらりと春が過ぎ行く
涙を流さずにはいられない春



「ねえ喜助さん、現世は桜、咲いてるかな?」



今日も願います
貴方が、幸せでありますように






***


vanitasのヒロイン視点