日常?いいえ、非日常です
こんなことになるんだったら、もっとちゃんとガールズトークするんだったなぁ。お妙、神楽、九兵衛、さっちゃんとかと一緒に。
銀時とももっと話しておくべきだった。やっと会えたんだから、もっとちゃんと話せばよかったな。……てかアイツに貸した金まだ返ってきてないんだけど。
近藤さんにも色々お礼言ってないなぁ。あの日助けてもらったこと、感謝してるのに。
そして気づいたら知らない場所にいて、冒頭に戻るのである。
「…あれ?」
「あ?」
不意に、二人の青年の視線が風香に向けられる。
しかし風香は考え事をしていて、それに気づことができなかった。
『(つーかなんだよあの世界に戻れる保証はないって。ふざけろよクソ。てかあれ、あの世界ってなんだっけ?つーかなに?ここ異世界?マジでトリップしちゃったの?ウソだろ?誰かウソだと言ってくれ。お願い、300円あげるから)』
「ねえ」
『(てゆーかなに?なんであの人自販機持ち上げてんの?なんでガードレール引っこ抜けるの?なんで標識投げられるの?もしかしてあの金髪の人、夜兎なのかな?てか夜兎じゃね?いやいやでもこんな日差しが容赦なく照りつける太陽の下番傘をささないってどーいうこと?有り得なくね?)』
「ねえ」
『(てかあの眉目秀麗なおにーさんは何者?気配が只者じゃないんだけど。いやそれを言ったらあの金髪のおにーさんもだけど…まぁいいや。つーか動体視力ハンパねェな。投げられた自販機避けるとか無理でしょ。てかよくこんな暑い中ファー付きのコート着てられるな)』
「ねえってば」
いつの間にか、黒髪の青年が前に立っていた。風香は顔には出さなかったが、困惑した。
――気配が感じなかった。
「お姉さんさぁ、今ここがどれだけ危ないかわかってる?シズちゃんがいるんだよ、シズちゃんが!他の人間はみんな逃げていくのに一人だけ動かない女!不思議だったよ。まあ俺としてはお姉さんがここからどう動くのか見たかっただけだしお姉さんがケガしようがさせられようが関係ないんだけど。けどケガしたら入院はまぬがれないだろうから大変だろうね。よかったね、ケガしなくて」
マシンガントークのようにペラペラと喋りだす黒髪の青年。
「でも正直驚いたよ。俺とシズちゃんのケンカが始まったらいなくなるかと思ってたのにまだいるんだもんなぁ。周りには誰もいないのに!あ、もしかして恐怖で動けないとか?わかるよー、シズちゃん恐いよねぇ。だって化け物だもん!」
『化け物?』
「あれ?もしかしてお姉さん、シズちゃんのこと知らないの?あっはは!驚いた!まさかこの街にいてシズちゃんのこと知らない人間がいたなんて!面白い!実に面白いよ!」
なにがそんなに面白いのか。黒髪の青年は金髪の青年をバカにするように笑った。いや、もしかしたらバカにしているのは風香のことかもしれないが。
そして、そんな事を言われて黙っていられる程金髪の青年は優しくない。
「手前…言いたい事はそれだけか?」
「あっは、キレちゃった?うわー、怖い怖い」
「思ってもいねぇこと抜かしてんじゃ…ねえええ!!」
「それじゃ、俺は退散することにするよ。またね、お姉さん」
「待ちやがれ!臨也ぁぁぁ!!」
ポツンとその場に残された風香。
今日わかったことは、ここは江戸ではないということ。本当に異世界だということ。あの黒髪の青年と金髪の青年には関わらない方がいいということ。黒髪の青年の名前がイザヤで、金髪の青年の名前がシズちゃんだということ。
とりあえず言いたい。
『なんか色々面倒くさいことになったんですけど…!』
あたしの日常を返してほしい。そう強く願った。