▼ 鍋は人生の縮図である
四散する肉。
「あーあ、貴重な肉が四散しちまった」
「土方さんが強く引っぱるからですよ。はしゃぎ過ぎなんですよ、スキヤキ如きで」
『コノヤローだましやがって。アンタらのせいであたしの心はどんどん薄汚くなっていくよ』
「元からだろ」
『あんだとコラ』
「大体、食卓は戦場だって教えたろ。忘れたかコラ」
『教えられてねーよ。もういい、信じないよ。みんな敵だから。誰も信じないから』
「いい心がけでさァ。もっと俺を憎め。その憎しみのパワーを糧にこの腐った世の中を生き抜いていくんだよ」
『腐ってんのはテメーの頭だよ』
(side.土方)
…まずいな、やはりこうなったか。
今の
このままでは残りの肉も口に入れる前に確実に四散する…。
…肉を人より多く食すことより先ずは野獣達から肉を保護することを考えるべきだ。だが連中は今頭に血が上っている。下手に止めると逆効果だ…。
いや…馬鹿のくせにプライドだけは一級品の連中だ。そこを刺激すれば…。賭けに近いが肉を護るにはこれしかない…。
「俺もういいわ」
箸を机に投げ置き、タバコを蒸す。
「喧嘩してまで食べたかねェよ、情けねェ。実は昨日近藤さんと二人で焼肉食ったんだよ。もう飽きたっつーか…いつでも食えるっつーか…。後は二人で食ってろ」
…来い!乗ってこい!
「しょうがないですね。まァ俺も別に肉食べたかったワケじゃないですし。アンタらに食べてもらおうと思ってやったことですし。こんなんなるんだったらやめましょーか。俺はいいですけどマジいいんですかィ?アンタら」
『上等だコルァァァ!!あたしだって別に肉なんて食べたくないし!ベジタリアンだし!!』
来たっ!!
「やめだやめだ、スキヤキなんて」
『やってられっかよチキショー』
…だが思った以上にフリが効きすぎたようだ。もうこのままおひらきになってしまいそうな勢いだ…。
マズイな…自分からあんな事を切り出しただけに鍋を再開させようなんて言うのは不自然だ。第一アレだ、恥ずかしい。
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