▼ 闇夜の虫は光に集う
「あっ…兄者ァァァ!!」
鉄子に紅桜が振り降ろされそうになった時、鉄矢がかばった。
鉄子は鉄矢に駆け寄り抱き起こす。
「うっ…うあああああああああああ!!」
泣き叫ぶ鉄子に再び紅桜が振り降ろされる。それを阻止したのはあたしだった。
銀時は立ち上がるのもままならない状態で、見てるこっちが痛くなってきそうな深い傷だった。
「兄者ッ!!兄者しっかり!兄者!」
「クク…そういうことか」
「兄者!!」
「剣以外の余計なものは捨ててきたつもりだった。人としてよりも刀工として、剣をつくることだけに生きるつもりだった。だが最後の最後でお前だけは………捨てられなんだか。こんな生半可な覚悟で究極の剣など打てるわけもなかった」
「余計なモンなんかじゃねーよ。余計なモンなんてあるかよ。
全てをささげて剣をつくるためだけに生きる?それが職人だァ?大層なことぬかしてんじゃないよ。ただ面倒くせーだけじゃねーか、てめーは」
そんな状態でも銀時は刀を支えにしてゆっくりと立ち上がる。
「いろんなモン背負って頭かかえて生きる度胸もねー奴が職人だなんだカッコつけんじゃねェ。見とけ。てめーのいう余計なモンがどれだけの力を持ってるか」
向かってくる似蔵に、銀時は刀を向けた。
「てめーの妹が魂こめて打ちこんだ
「銀さん!!無理だ!正面からやり合って紅桜に…」
『勝てるよ、
「でも…!」
『だーいじょーぶ。
***
刀なんぞしょせん人斬り包丁。
どんだけ魂込めて打とうがコイツは変わらねェ。
だがだからといって俺達ゃ鎚を止める訳にはいかねェよ。おまんま食いっぱぐれちまう。
いやいやそれだけじゃねェ。俺達のつくるもんは武器だ。だからこそ打って打って打ちまくらなきゃならねェ。
鉄じゃねーよ、てめーの魂をだ。
鉄を叩きながらてめーの魂を叩きあげろ。
優しく清廉な人になれ。
美しく生きろ。
お前らがちったァマシになりゃそれに応えて
なァオイ、おめーはどんな剣が打ちたい?
「…護る剣」
あ?声が小せーよ。
「人を、護る剣」
***
一騎打ちの勝負。勝ったのは銀時で、紅桜は砕け似蔵はその場に倒れた。
「護るための…剣か…。お前…らしいな、鉄子。……どうやら私は…まだ打ち方かわ…足りなかった…らしい」
呼吸の音が浅くなっていくのがきこえる。それを間近できいているのは妹なんだけれど。
「鉄子。いい鍛冶屋に…な……」
握っていた手が落ちる。
目を閉じる。その瞳が開かれることはもう二度とない。
「……きこえないよ……兄者」
鉄子は唯一の肉親である兄の屍の上で、静かに涙を流した。
「いつもみたいに…大きな声で言ってくれないと…きこえないよ」
続く
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