▼ 闇夜の虫は光に集う
銀時が似蔵に連れていかれた。それは今のあたしにとっては十分衝撃的なことだった。
『ぎんときっ!』
「待て風香!!」
ヅラに手を掴まれた。なんで。どうして。
『放して!放してよ!早く…早く行かなきゃ…!』
このまま銀時が死んでしまったら?
このまま銀時が戻ってこなかったら?
『お願いだよ、小太郎。あたしはもう失いたくない。大切なモノ。大切な人達を』
「………」
するりとヅラの手が解けた。
「約束しろ。銀時を連れて必ず帰ってくると」
『……わかった、約束する』
そのやりとりをしている間、晋助はじっとあたし達の方を見ていた。
***
『銀と…うわぁ!?』
下に降りたらいきなり武市が飛んできた。びっくりしてよけたら奴は壁にぶち当たって気絶した。
何か様子がおかしい。そう思ったのは間違いじゃなかったようだ。
似蔵は完全に紅桜に支配された。自我さえない奴の身体は全身剣と化している。
あれが、紅桜の完全なる姿だとでもいうのか。
「鉄子ォォ!!」
「死なせない!!コイツは死なせない!これ以上その剣で、人は死なせない!」
鉄子が似蔵の腕に刀を刺した。似蔵が鉄子に向かって紅桜を振り上げるが神楽の蹴りによって止められた。
新八も神楽も鉄子も頑張ってるんだ。あたしも頑張んないでどーする。
「で〜か〜ぶ〜つ〜」
「そのモジャモジャを」
『離せェェェェェェェ!!』
***
何故…何故だ。鉄子、何故理解しようとしない。
私はこれまで紅桜に全てをささげてきた。他の一切の良心や節度さえ捨てて。
それは私の全てなんだ。それを失えば私には何も残らん。
「惜しい人を亡くしたな」
「あれ程の刀を打てる奴ァもう現れんだろうて」
「息子がいるってきいたがありゃどうなんでい?」
「ありゃダメだ。親父があの稀代の刀工 仁鉄じゃなけりゃ比べられる事もなかったんだろうが。まァ普通に食ってくにゃ困らねーんじゃねーの」
「鉄子…お前は鍛冶の腕はメチャメチャだが、鉄矢にねェもんをもってる。野郎もいつかわかってくれるといいんだが」
親父を越えるため、剣だけを見て生きてきた。
全てを投げうち剣だけを打ってきた。
いらないんだ。私は剣以外何もいらない。
それしかないんだ。私にはもう剣しか…。
だけど。
だけど鉄子に紅桜が振り降ろされそうになった時……自然と身体が動いていた。
***
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