銀色ジャスティス | ナノ


▼ 傘の置き忘れに注意

「なるほどね、高杉が…」


万事屋には鉄子が来ていた。高杉に関わる兄を止めてくれと銀時に頼みに来たのだ。


「事情はしらんがオメーの兄ちゃん、とんでもねー事に関わってるらしいな。で?俺と風香はさしずめその兄ちゃんのダシにつかわれちまったわけだ」


妖刀を捜せというのもそれに風香を巻き込んだのも、要はその妖刀に二人の血を吸わせるためだったのだろう。それとも銀時に恨みをもつ似蔵に頼まれたのか…はたまたその両方か。


「にしてもひでー話じゃねーか。お前全部しってたんだろ?兄ちゃんの目的をしったうえで黙ってたんだろ?それで今さら何とかしてくれって?お前のツラの皮は月刊少年ジャンプ?」

「…スマン、返す言葉もない。アンタの言う通り全部しってた…。だが…事が露見すれば兄者はただではすむまいと…今まで誰にも言えんかった」

「大層兄思いの妹だね。兄貴が人殺しに加担してるってのに見て見ぬフリかい?」

「銀サン!」

「……『刀なんぞはしょせん人斬り包丁だ。どんなに精魂こめて打とうが使う相手は選べん』。死んだ父がよく言っていた私達の身体にしみついている言葉だ」


鉄矢は刀をつくることしか頭にないバカだ。仁鉄をこえようといつも必死に鉄を打っていた。
やがてより大きな力を求めて機械からくりまで研究しだした。高杉らとつき合いだしたのはその頃だという。
奴らがよからぬ輩だということは薄々勘づいていたが止めなかった。自分達は何も考えずに刀を打っていればいい。それが自分達の仕事なんだと。


「わかってんだ、人斬り包丁だって。あんなモノはただの人殺しの道具だって。…わかってるんだ。…なのに悔しくて仕方ない」


兄が必死につくったあの刀をあんな事につかわれるのは悔しくて仕方ない。鉄子は肩を震わせて涙をこぼした。


「…でももうことは私一人じゃ止められない所まで来てしまった。どうしていいかわからないんだ…。私はどうすれば…」

「どうしていいのかわからんのは俺の方だよ」


銀時はソファから立ち上がる。


「こっちはこんなケガするわ、ツレがやられるわ、幼馴染みが連れ去られるわで頭ん中グチャグチャなんだよ」


渡された慰謝料を鉄子に返す。


「さっさと帰ってくれや。もうメンドくせーのは御免なんだよ」



***



「安心しました」

「あ?」

「行くんじゃないかと思ったから。そんな身体でも」


鉄子が帰ったあと、銀時は自室で横になっていた。


「そんな身体で行っても死んじゃいますもんね」

「そうだな」

「あの女の子には申し訳ないけど仕方ないですよね」

「そうだな」

「……銀サン」

「あ?」


銀時は身体の向きを変える。


「あんまり無茶するのはもうやめてくださいね。銀さんがいなくなったら新ちゃんも神楽ちゃんも…風香さんも困りますから」

「そうだな」

「昔は銀さんも色々ヤンチャやってたようだけれども、もうそんな事する年じゃないですもんね」

「しつけーんだよコノヤロー!」


銀時は起き上がった。


「もうどこにも行かねーからちょっとジャンプ買ってこい。おまえらさっき買ってきたの赤マルだぞ。お母さんみてーな間違いしてんじゃねーよ!」

「ハイハイ、わかりましたよ」


そう言ってお妙は部屋を出ていった。ドアを閉めた音がきこえると銀時は小さく「すまねーな」と呟いた。
さっき慰謝料の袋の中に『鍛冶屋で待ってろ』と置き手紙を入れたのだ。布団から出て玄関に向かう。


「俺だっていい年こいてヤンチャなんかやりたかねーけどよ」


玄関には綺麗に畳まれた自分の服と揃ったブーツ、折畳み傘があった。そして服の上には綺麗な字で書かれた置き手紙が。『私のお気に入りの傘、あとでちゃんと返しに来てくださいね』



「チッ かわいくねー女」


銀時は傘をさし万事屋を出る。



「バカなひと


お妙も人知れずに呟いた。





続く

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