▼ 災難は続け様に降り掛かる
銀時が危ない。瞬時にそう考えたあたしは刀を二本取り出し衝撃を和らげる。
……まあ橋の大半を壊して川に落とされたんだからそんなに大差はないんだろうけど。
川から橋の上にいる似蔵を見上げる。
「おかしいね、オイ。アンタもっと強くなかったかい?」
「……おかしいね、オイ。アンタそれホントに刀ですか?」
似蔵の手にある刀――奴は紅桜と呼んでいた――を見る。
腕が刀と一体化している。
コードのようなものが伸びている。
息づいている。
『刀というより生き物みたいだったって冗談じゃないよ。ありゃ生き物ってより……』
化け物じゃないの。
─ドォン
水飛沫が上がる。似蔵が川に飛び込んできた。振り降ろされる紅桜をかわす。
「銀さんんん!!風香さんんん!!」
似蔵の足を蹴りバランスを崩させる。
銀時が似蔵の上に乗り木刀を構える。
「喧嘩は剣だけでやるもんじゃねーんだよ」
「喧嘩じゃない。殺し合いだろうよ」
捕まえた。そう思ったのは一瞬で、紅桜のコードのような触手のようなものが木刀を抑える。
あたしは咄嗟に奴を蹴り飛ばすが少し遅くて、二人して壁に叩き付けられた挙句木刀が折れてしまった。
「銀さんんんん!!風香さんんんん!!」
何コイツ…着ぐるみでも着てんじゃないの?人間の力じゃない。
─ブシュッ…
一瞬のことだった。
『え…』
「オイオイ、これヤベ…」
痛みを感じない程の速さで胸元を斬られた。気付いた時にはもう遅く、血がどんどん溢れてくる。てゆーか背中痛いんだけど。やっぱ壁って硬いなー。
なんて呑気なことを考えていたら、銀時が紅桜に刺されていた。マジかよ。ちょ、身体動かねェェ…。
「後悔しているか?以前俺とやり合った時何故殺しておかなかったと。俺を殺しておけば桂もアンタも黒龍もこんな目には遭わなかった。全てはアンタの甘さが招いた結果だ、白夜叉」
血が止まらない。
「あの人もさぞやがっかりしているだろうよ。かつて共に戦った盟友達が揃いも揃ってこの様だ。おまけに黒龍は幕府なんぞに寝返って」
『(寝返ってねェよ…)』
「アンタ達のような弱い侍のためにこの国は腐敗した。アンタらではなく俺があの人の隣にいればこの国はこんな有り様にはならなかった。
士道だ節義だくだらんものは侍には必要ない。侍に必要なのは剣のみさね。剣の折れたアンタ達はもう侍じゃないよ。惰弱な侍はこの国から消えるがい…」
似蔵が銀時から紅桜を抜こうとするがそれは叶わなかった。
『……剣が折れたって?』
「剣ならまだあるぜ。とっておきのがもう一本」
なぜなら、銀時が紅桜を掴んでいるからだ。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
新八が叫びながら川に飛び込む。そしてエリザベスから奪った刀で似蔵の右腕を斬り落とした。腕から血が吹き出しているがたいして痛がっている様子はない。何でだよ。
「アララ、腕がとれちまったよ。ひどいことするね、僕」
「それ以上来てみろォォ!!次は左手をもらう!!」
新八は震えていたが、あたし達を護るように前に立った。
その時、騒ぎを聞きつけ役人がやってきた。
「チッ うるさいのが来ちまった。勝負はお預けだな。まァまた機会があったらやり合おうや」
『っな、ちょ……!』
そのまま逃げる、と思ったが紅桜を拾った似蔵はあたしを抱えて逃げた。背中を強打したこともあり頭がくらくらする。動けない自分が恨めしい。
「新八、おめーはやればできる子だと思ってたよ」
意識を失う寸前に聞いた銀時の台詞はそれだった。
続く
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