銀色ジャスティス | ナノ


▼ 扇風機つけっぱなしで寝ちゃうとお腹壊しちゃうから気を付けて

太陽がさんさんと降り注ぐ真昼。あたしは徒歩で電気屋まで歩いていた。


『あ、やっぱダメだ。心頭滅却しても暑いもんは暑い。誰だよ、こんないい加減な格言残した奴は?』


あ、土方さんだ。


『つーかなんでこんな暑い日に扇風機なんか買いにいかなきゃなんないの、腹立つな。女の子をいたわれよ。つーか壊したの総悟だし。総悟のあの一撃で壊れたんだし。なのにジャンケンで負けたからって…あたし年上だぞコノヤロー』


独り言をブツブツ呟く。


『腹立つからエアコンに乗りかえてやろうかな。ねェオッさんいいかな?あたしエアコンに乗りかえちゃっていいかな?』


道を歩いている通行人Aにきく。


「え?…いや、まァいいんじゃないの」

『いいわけないでしょ。エアコン買う金なんてどこにあんの?余計な口挟まないで』


てゆーかなんかおかしくない?なんで涼しくなるためのマシーンを汗だくになって買いにいかなきゃなんないの?埋蔵金を埋蔵金で掘るようなもんじゃん。飲む前に飲むようなもんじゃん。次の扇風機がウチ来てもとりあえず無視だね。三日三晩壁にむかって微風を吹かせ続けてやるよ。


『あー 腹立つホント。エアコン買おうかな。あ、でも金ないんだ』



***



電気屋に到着した。


「は?扇風機?スイマセン、ウチは置いてないわそーいうの。ホラ、今の時代もうエアコンでしょ?クーラーでしょ?そんなの置いてても売れないからさァ」


え?扇風機売れないの?


「お姉さんもどう?これを機会にエアコンに乗りかえたら?安くしとくから」

『マジっすか。じゃ、お願いします。あの、お金の方はこれ位でなんとかしてほしいんですけど』


ピラッと出すのは野口英世。


「よってらっしゃい見てらっしゃーい!夏の大売り出しだよ〜〜!!」

『アレ?おじさん?おかしいぞ、おじさんが目を合わせてくれなくなった。おじさーん』




二軒目。


「扇風機?ないない。骨董屋にでもいった方がいいんじゃないの?」

『…………』




三軒目。


「何、今時扇風機なんて使ってんの。それってヤバくない?軽くヤバクない?なに気にヤバくない?」

『…………』




四軒目。


「扇風…がはっ」


おじさんになにか言われる前にアイアンクローをかました。


「いだだだだだだ!!何すんのォォォ!!まだ何もしゃべってないのに!!」

『うっさいよ。どーせないんでしょわかってんだよ。わかっちゃってんだよ』


また歩きだした。


あー 腹立つ!イライラする!あの青い空まで腹立つ!あんなに青いのに!


『なんで扇風機如き買うのにこんな汗だくでたらい回しにならなきゃなんないの。ねェおっさん、帰っていいかな?あたしもう帰っていいかな?』

「え…いや、帰っていいんじゃねーのか」

『いいわけないでしょ!屯所はもう蒸し風呂状態なの!手ぶらで帰ったら殺されんの!何も知らないくせに知ったような口きかないで!!』


道を歩いている通行人Bにきく。イライラしながら言葉を返したらおじさんは泣いた。なぜだ。

やっぱおかしい。おかしいぞこれは。扇風機買いにきてんだよ。涼しくなるためにきてんだよあたしは。なのに暑くなる一方じゃないの。イライラする一方じゃないの。汗だくじゃないの。


『あー 腹立つホント。エアコンにしときゃよかった!!』


あ、でも金ないんだ。

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