▼ デートは三十分前行動で
エレベーターから現れた銀時。背中には勘七郎もいる。
「! なんだ貴様。何者だ!?」
「あー?なんだツミはってか?そーです私が…子守り狼です」
「勘七郎!!」
「銀さん!!」
周りを見渡し、銀時はため息を一つこぼす。
「なんだかめんどくせー事になってるみてーだな、オイ。こいつァどーいうこった、風香?三十字以内で簡潔に述べろ」
『無理。てゆーか銀時こそなんでここに?三十字以内で簡潔に述べて』
「無理だ」
でしょ?自分ができない事を他人に押し付けんな。
「オメー バカかァァ!!わざわざ敵陣に赤ん坊連れてくる奴があるかァァ!!」
「なんだテメー、人がせっかく助けてやったのに…てゆーかなんでこんな所にいんだ?三十字以内で簡潔に述べろ」
「うるせェェ!!」
マダオが叫ぶ。うるさいなぁ…。
「風香」
『はいはい。あのじーさん…賀兵衛は銀時が背負ってる勘七郎を狙ってんの。自分の息子がはらませたお房さんを足蹴にしておきながら、テメーの一人息子が死んだ途端手の平返してそのガキ奪って無理やり跡とりにしようとしてるってワケ』
あたしはやれやれ、と肩をすくめる。
「…オイオイ。せっかくガキ返しに足運んだってのに無駄足だったみてーだな」
「無駄足ではない。それは私の孫だ。橋田屋の大事な跡とりだ。こちらへ渡しなさい」
「俺としてはオメーから解放されるならジジイだろーが母ちゃんだろーがどっちでもいいが、オイ オメーはどうなんだ?」
「なふっ」
「おう、そーかィそーかィ」
銀時は勘七郎に聞くと、そのままお房さんの方へなげた。
「わっ!」
「ワリーなじーさん。ジジイの汚ねー乳吸うくらいなら母ちゃんの貧相な乳しゃぶってた方がマシだとよ」
「やめてくれません!そのやらしい表現やめてくれません!」
「逃げ切れると思っているのか?こちらにはまだとっておきの手駒が残っているのだぞ」
賀兵衛が呟いたのとほぼ同時だった。閉じられていたはずのシャッターが斬られ開けられたのは。
「盲目の身でありながら居合いを駆使し、どんな獲物も一撃必殺で仕留める殺しの達人…その名も岡田似蔵。人斬り似蔵と恐れられる男だ」
第四十一訓
デートは30分前行動で
「やァ。またきっと会えると思っていたよ」
敵意を向けられているというのに悠長に話し出す似蔵。
銀時は奴と会ったことがあるのか…?
「てめェあん時の…目が見えなかったのか?」
「今度は両手が空いているようだねェ。嬉しいねェ、これで心置きなく殺り合えるというもんだよ」
「似蔵ォ!!勘七郎の所在さえわかればこっちのもんだ!全員叩き斬ってしまえ!!」
『銀時気を付けて!そいつは居合い斬りの達人。絶対に間合いに入っちゃダメ…、!!』
一瞬のことだった。
『っ!!』
「むぐっ!!」
風が通り過ぎたかと思ったら銀時は左肩、あたしは左腕を斬られていて。
その一瞬で似蔵はお房さんの腕から勘七郎を奪った。
「いけないねェ。赤ん坊はしっかり抱いておかないと。ねェ?お母さん」
「勘七郎!!」
「ククク さすが似蔵、恐るべき速技…。あとはゆっくり高みの見物でもさせてもらう」
「悪いねェ旦那。俺も二人相手じゃそんなに余裕がないみてェだ…。悪いがさっさとガキ連れて逃げてくれるかね」
片膝をつき、似蔵は額から血を流す。どうやらさっき放った一撃はちゃんと当たっていたみたいだ。よかったよかった。
「新八、神楽、風香…もういいからオメーらはガキ追いな」
「でも!!」
「いいから行けっつーの。いででで。あとで必ず行くからよ」
その言葉を聞いてみんなは走り出す。ただ一人、あたしを除いて。
「オイ風香、行けっつったろ」
『アンタの命令を聞く筋合い、あたしにはない』
「かわいくねーな」
『アリガトウ』
褒めてねーよ、と呆れられた。知ってるわボケ。
「風香、これはな男と男の戦いなんだよ。だからお前はさっさと新八達追え」
『いや』
「必ず、行くから」
『!』
「もう、約束破ったりしねーから。だから…頼むよ」
なっ?なんて言われたら断るのも断れないじゃんかバカヤロー。
『…………絶対だからね』
そのまま、答えをきかずに走り出した。
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