▼ 家政婦はやっぱり見てた
「何!姿を消したぞ奴ら!!」
「一体どこに!?」
「あっちを探すぞ!!」
『あっ…あっぶねェェ!!』
下に屋根があってよかった!ホントよかった!!下に屋根があったから、あたし達は生きてるといっても過言ではないだろう。なかったら今ごろあたし達は地面とこんにちはをしていただろうから。
「あの…あなた達一体誰なんですか?なんで私のこと…」
「あなたですよね?僕らのウチの前に赤ん坊を置いていったのって」
「え?じゃああなた達…」
「安心してください、赤ん坊はちゃんと僕らが保護してるんで」
「本当ですか!勘七郎は!勘七郎は無事なんですね!?」
「わわっ ちょっと!!」
新八の肩をつかみ揺さぶる彼女。
「やっぱりあなたがあの子の母親なんですか」
『なにがあったか教えてくれません?あたし達にもそれくらい聞く権利あるでしょう?』
「……私、昔この橋田屋に使用人として奉公してたんです」
お房さんはポツリポツリと話をしてくれた。
「あれはまだ私が16の時です。私の家は…あの、とても貧しかったので働き口を探して──」
お房さんに任されたのは賀兵衛の息子である勘太郎さんの世話だった。勘太郎さんは幼い頃から病弱で寝たきりの生活を送っていた。
勘太郎さんはいたずら好きでよく使用人達をからかい困らせていた。使用人にも友人のように接してくれる人で世話をしていくうちに惹かれていった。
それから半年後、二人は隠れて逃げるように屋敷から出た。勘太郎さんの力になりたかったという。
「それから一緒に暮らし始めて。生活は苦しかったけど二人一生懸命働いて泣いたり笑ったり……楽しかった」
けれどそんな日々がずっと続くはずもなく、とうとう見つかってしまった。
賀兵衛に勘太郎さんとの子供が腹にいることがバレて堕ろせと言われる。
「その後、私と勘太郎様は最後まで会うことを許されませんでした。あの人が亡くなるまで。程なくしてあの子が生まれ、私 あの人の分も勘七郎を立派に育てようって…そう決心して…」
勘太郎さんは賀兵衛のただ一人の息子だった。跡とりを失った賀兵衛は、勘七郎を新しい跡とりにと目をつけた。
「あの人を失いさらに勘七郎まで失うのは私たえられなくて、必死にあの子を護ろうとしました。でも追っての手が厳しくこのままでは親子二人捕まってしまうと…」
だから万事屋の前に置き去ったと彼女は話した。
「…あなた達にはすまないことをしたと思っています。私の勝手な都合でこんなことに巻き込んでしまって」
「…お房ちゃん、アンタ若いのに苦労したんだねェ。しかし賀兵衛って野郎はとんでもねェ下衆野郎らしい」
「下衆はそこの女だ」
屋敷の中を彷徨っていると、複数の人間の気配がした。すぐに攻撃できるように準備もきちんとして。
「私の息子を殺したのはまぎれもなくその女。その女さえいなければ私の橋田屋は安泰だった。次の代にこの橋田屋を引きつぎそうして私の生涯の仕事は完遂するはずだったんだ。それをそこの貧しく卑しい女に台無しにされたんだよ、私は」
浪士は賀兵衛を中心に集まる。わー、どんどん増えてるよー。
「私がこれまでどんな思いをしてこの橋田屋を護ってきたかわかるか?泥水をすすり汚いことに手を染め良心さえ捨ててこの店を護ってきたこの私の気持ちがわかるか?」
「勘太郎様はあなたのそういうところを嫌っていました。何故そんなにこの店に執着するのですか?お金ですか?権力ですか?」
「女子供にはわかるまい。男はその生涯をかけて一つの芸術品をつくる。成す仕事が芸術品の男もいよう。我が子が芸術品の男もいるだろう。人によってそれは千差万別」
シャッターが閉まる。しまった、逃げ道をふさがれた。マダオがエレベーターのボタンを押しているが間に合わないだろう。この数、殺さずに刀で乗りきれるだろうか。
「私にとってそれは橋田屋なのだよ。芸術品を美しく仕上げるためなら私はいくらでも汚れられる」
襲いかかってくる浪士を前にみんなを庇うようにして刀を構えた。その時。
─ドゴォン
浪士が凪ぎ払われた。あたし、ではない。じゃあ誰だ?後ろには開いているエレベーター、そして。
「おーう、社長室はここかィ?」
「なっ!なにィ!?」
「これで面会してくれるよな?」
しゃり、とリンゴをかじる銀時と勘七郎だった。
「アッポォ」
「ナポォ」
続く
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