銀色ジャスティス | ナノ


▼ 家政婦はやっぱり見てた

「相も変わらず強情な女よ。勘太郎も酔狂な男だったがこんなうす汚れた卑しい女のどこにホレたのやら皆目見当つかんわ。ええ?ひとの息子をたぶらかし死なせたうえ、あまつさえその子をさらうとはこの性悪女が」

「勘七郎をさらったのはあなた達の方でしょう。あの子は私の子です。誰にも渡さない」

「よくもまァいけしゃあしゃあと。お前のような女から橋田家の者が生まれただけでも恥ずべきことだというのに。勘七郎に母親はいらん。いや、橋田家にお前のようなうす汚れた女はいらんのだよ。あの子は私が橋田家の跡とりとして立派に育てる」

「…………」

「その方があの子にとっても幸せなことだろう。お前のような貧しい女が一人で子を育て幸せにすることができると思っているのか?」




中の様子を窺っていると、数人の男…攘夷浪士に声をかけられた。どうやら使用人と思われているみたいだ。


「あっ…アレでございます。こ…この者達三人新入りでございまして…あの…ビルを案内していたところでして」

「そーでごぜーます、御主人様」

『お帰りなさいませー、御主人様』

「いや御主人様じゃないから」

『ああん?男はなァ、みんなこんなん言われたら嬉しいんだよ。そーだろ男共』

「風香さんんんん!!そんな事言ったらダメですよ!」

「それじゃあ私達は失礼しま…」

「待ちな」


失礼します、というマダオの声を遮ったのは一人の男だった。


「くさいねェ。ねずみくさいウソつきスパイの匂いだね。今日はいろんな匂いと出会える日だね。でもそろそろ鉄くさい血の匂いがかぎたくなってきたところさね」


男は刀を鞘から抜き、言い放つ。


「闘り合ってくれるかィ、この人斬り似蔵と」


そいつは、晋助の率いる鬼兵隊の一員で人斬り似蔵の異名を持つ岡田似蔵だった。

似蔵が振り下ろしてきた刀を止めるが、咄嗟のことだったのであまり意味はなかった。コイツめっさ力入れやがった…!鉄格子壊す程の威力とか何!?


「………何事だ?」

「こいつはお楽しみ中すいませんね。ちょいとあやしいネズミを見つけたもんで」

「! そなた達はお登勢殿のところにいた…」


賀兵衛はあたし達を見ると一瞬目を見開いたが、すぐに元の表情に戻った。


「おやおや、こんな所までついてくるなんてお節介な人達だ。私事ゆえこれ以上はお手伝いいらぬと申したはずですが?」

『それなら心配無用。あたし達も私事できてるもんで。それにしても、孫思いのおじーちゃんにしてはちょっとやり過ぎじゃありません?』

「あなた方もただのお節介にしてはやり過ぎですよ。世の中にはしらぬ方がいい事もある」


あたし達の周りは浪士に囲まれていた。あは、これ簡単に帰してくれなさそうじゃん?


「すいませ〜ん、僕はあの…関係ないんで帰っていいですか?」

「神楽ちゃん」

「御主人様〜、コーヒーの方砂糖とミルクどちらでお召し上がりやがりますか?やっぱコーヒーは、砂糖でごぜーますよな!!」


神楽はいつの間にかコーヒーと砂糖を持っていた。そして砂糖を床に投げつけ煙幕代わりにする。
お房さんの縄を解き、壁を壊して屋根へと避難する。だけど似蔵にはバレてしまった。


『あっ…危ぶねェェ!!』


壁の近くにいたあたしは危うく斬り殺されそうになった。あぶな!髪の毛数本宙に舞ったんだけど!今のはホントヤバかった!
そしてあたし達は今逃げている。


「ギャアアアア!!」

「もうダメだ!もうダメだ!ごめんなさい!ごめんなさい!」

『謝ってる暇があんなら足動かしな!!』

「ゼーヒュー 肺が!!肺が痛い!はり裂けそうだ!!俺は決めた!今日でタバコとお前らとのつき合いを止める!!」

『タバコってのはやめたくてもやめられないんだよって土方さんが言ってた!まああの人は止める気さらさらないんだろうけどね!』

「あれ!?神楽ちゃんは!?神楽ちゃんがいない!!」



「ぬごををを!!」



どこに行ったんだとあたりをキョロキョロ見るがいない。そしたら声が聞こえた。神楽のものだった。
そちらを見ると、神楽はタンクを引きちぎろうとしていた。それはいいのだ、敵に当てるためだから。しかし問題が一つある。


『待て待て!!まだあたし達いるから!!』

「ウソ?ちょっと待って」


そう、あたし達はまだ敵の近くにいるのだ。しかしそんなの関係あるかァァ!!という風に神楽はタンクを下に投げた。


「うおらァァァァ!!」

『「「ぎゃあああ!!」」』


あたし達が逃げる中、似蔵はそこから動かなかった。下敷きになる…そう思った瞬間だった。



─ゴパ…ッ



似蔵がタンクを真っ二つに斬ったのは。


『うそぉ』

「んなバカな!化け物かアイツ!?」

『ま、アレはまともにやり合って勝てる相手じゃないよ。ここは逃げよう!』

「そうですね!」

「アレ?最初から逃げてなかったか?」


走り出す。そして足を滑らせ屋根の上を転がる。恐い恐い恐い恐い!落ちる落ちる落ちる落ちる!!


『ちょっ マジヤバいってこれ!屋根から落ち…』


あ。


『「「ギャアアア!!」」』


落ちた。

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