銀色ジャスティス | ナノ


▼ どうでもいいことに限ってなかなか忘れない

屯所に戻り、少数の会議を開く。いやうん、会議っつってもあたしと土方さんだけだけど。もはや会議じゃないんだけど。マンツーマンなんだけど。


「山崎から連絡が入った」

『無事潜入できたの?』

「ああ」


今回ザキが潜入しているのはマムシ工場。そこの工場長は黒い噂が絶えない野郎だ。巷じゃ職にあぶれた浪人を雇ってくれる人情派で通っているらしいが、その実は攘夷浪士を囲い幕府を転覆させんと企てている過激テロリストと噂されている。


「あと、近藤さんが行方不明になった」

『またお妙のストーカーでもしてるんじゃないの?』

「いや、それがいねェんだ」

『は?じゃあホントに行方不明に?』


その時、携帯が震えた。ザキからだった。


『ザキどーした?何か失敗した?』

<何で失敗前提で話すすめてるんですか>

『え?違うの?』

<違いますよ。バカ発見したんでその連絡です>

『バカ?…………土方さーん、近藤さんマムシ工場にいるって』

「マジかよ」

『ザキー、近藤さん…あ』


何か…電話切れたんだけど。



***



あたし達はマムシ工場に来ていた。それはザキが心配になったからでも、近藤さんを迎えに来たわけでもない。通報があったのだ、マムシ工場で立て続けに爆発が起きていると。
現場に着くと、一般人が何だなんだと様子を見に来る。あ、瓦礫飛んできた。あ、土方さんに当たった。あ、血ィだらだら出てきた。


『は〜い、危ないから下がりなさ〜い。この人のようになるよ〜。ポーカーフェイス気どってるけどものっそい痛いんだよ〜、恥ずかしいんだよ〜』

「エライ事になってるな」

『土方さんもエライ事になってるよ』

「コレ山崎の野郎死んだんじゃねーのか」

『土方さんも死ぬんじゃないの』

「近藤さんもいるんだよな…」

『イエス』

「山崎一人なら見捨てようかとも思ったが、近藤さんがいたんじゃそうもいかねーな」


まー あれでも一応局長だしねぇ…。


「土方さん、俺笛家に忘れたんでちょっととりに帰ってきまさァ」

『あたしあの…あれ、お弁当』

「ああ、二度と戻ってくるな。そしてお弁当ってなんだよ、こんな爆発起きてるとこで食うのかよ。情けねェ もういい、俺一人で言ってくるからてめーらそこで待ってろ」


土方さんが工場に足を踏み出した時、隊士が何かに気づいた。あたし達も視線をずらす。そこにはバカデカい大砲が出てきた。


「総悟 風香、俺分度器家に忘れたからちょっととりに帰ってくる」

「土方さん大丈夫でさァ、分度器からここにあります」

『よかったじゃん土方さん、家に帰らなくて』


グッと親指を立てれば殺すぞと言われた。最近の若いモンはこれだから…。



***



○月△日

今日、生まれて初めて親父に殴られた。思い拳だった。それは己の背中一つで俺達家族や様々な重責を背負って生きてきた男の拳だった。

自分の拳がひどく小さく見えた。仕事をやめ、一年と三ヶ月ゲーム機のコントローラーしか握ってこなかった負け犬の拳だ。



「別になァ 上手に生きなくたっていいんだよ。恥をかこうが泥にまみれようがいいじゃねーか。最高の酒の肴だバカヤロー」



そう吐き捨てて仕事に出かけた親父の背中は、いつもより大きく見えた。
今からでも俺は親父のようになれるだろうか…初めて親父に興味をもった。

二年ぶりに外に出た。しぜん親父を追う俺の足。


マムシの蛮蔵。それが親父のもう一つの名前。
悪党どもをふるえあがらせる同心マムシ…彼の顔が見たかった。働くということがことなのか彼を通して知ろうと思った。








――――――マムシは、ワンカップ片手に一日中公園でうなだれていた…。

マムシは一ヶ月前にリストラ



***

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