▼ オカマは男のバカさも女のズルさも全部知ってる
『銀時ー、ヅラー』
「お姉ちゃん、しっかりしてよ!お姉ちゃん」
「「ん」」
二人は首から下が土に埋まった状態で目を覚ました。
「…よォ、元気だったか?坊主」
「まったく心配かけおって。ケガはないか?」
「その言葉そのままバットで打ち返すよ」
「…ヅラ、お前エライことになってるぞ。体どこやった?」
「お前も生首になってるぞ。ナムアミダブツ」
「新八ィィ 神楽ァァ 定春ゥゥ さようならァァ」
二人とも落ち着け、埋められてるだけだから。
「風香はなぜ無事なんだ?」
『逃げたから』
「おまっ…」
『でも逃げたっつってもギリギリだよ?ホラ、首筋に噛まれた痕残っちゃったし。それよりよく無事だったね、てる彦くん』
「ウン、僕ずっと木の上に隠れてたから。降りるに降りられなくて困ってたらお姉ちゃん達がアイツに運ばれてきて」
どうやらポチはエサを保管する時こうして埋めるクセがあるらしい。つーか
「…みんなご免。僕のせいでこんなことになっちゃって。何やってんだろ、僕…こんなたくさんの人に迷惑かけて。何が男の証拠を見せてやるだよ。こんなの男のすることじゃないよね」
銀時とヅラの土を掘りながらてる彦くんは悔し涙を流す。
「…でもやっぱり父ちゃんのことバカにされるのくやしくて。父ちゃんはあんなだけど誰よりも男らしいの僕は知ってる。誰よりも心がキレイなのも知ってる。…でも誰もそんなの見えないし見ようともしない。くやしい。僕、くやしいよ」
その時、後ろからポチが来た。
「オイオイこっち来てんぞ!」
「もういい!俺達はいいから風香と逃げろ!」
てる彦くんの手を引こうとするが振り払われ、また二人の土を堀り始めた。
『てる彦くん、早くしないと…!』
「テメーまでおっ死ぬぞ!オイきーてんのか!?」
「うるさーい!僕は男だ!絶対逃げない!」
『そんな事言ってる場合じゃ……ッチ!!』
てる彦くんを抱き上げ、刀で土を深く掘り返す。
「…俺は男だって?」
「「しってるよ、んなこたァ」」
そのおかげか、二人はポチの角をつかむ。
『アンタもアンタの父ちゃんも男だ。誰も見てくれない?バカ言うな』
「見えてる奴には見えてるよ、んなもん」
「少なくともここに三人いることだけは覚えておけ」
「フン 生意気いいやがって」
後ろから聞こえてきた声。白フン一丁の西郷さんはポチを殴り飛ばした。
「かっ…母ちゃん!!」
「………思い出したぞ。白フンの西郷…天人襲来の折 白フン一丁で敵の戦艦に乗り込み、白い褌が敵の血で真っ赤に染まるまで暴れ回った伝説の男。鬼神 西郷特盛!」
『…なーるほど、あたし達の大先輩ってワケか』
西郷さんは拳をポチの口に突っ込み、倒した。
「か…か…か 母ちゃん…ご…ご免、ぼく…」
ゴッ
「バカヤロー、父ちゃんと呼べェ」
西郷さんはてる彦くんを殴った。そして気絶したてる彦くんを抱える。
「オイ、テメーらはクビだ。いつまでたっても踊りは覚えねーしロクに役に立たねェ。今度私らを化け物なんて言ったら承知しねーからな。それから…なんかあったらいつでも店に遊びに来な。たっぷりサービスするわよ」
なんか語尾にハートついてた気がするのはあたしだけだろうか。
まあ何はともあれ、ウィンクをして振り返った西郷さん。そんな西郷さんに頭を下げるのはよっちゃんと片割れで。二人が西郷さんを呼んでくれたんだなとすぐにわかった。
「………恐いよ〜」
「どうやらいらぬ世話をしたらしいな」
『奴らも侍と変わんないね。立派な求道者だよ』
***
数日後。あたしは見廻りを少しサボって寺子屋にきていた。そーっと様子を伺うと、ちょうどこれからてる彦くんの作文だった。
「『ぼくの
ぼくのお母さんは、お母さんですがお父さんでもあります。というか、ホントはお父さんなんだけどお母さんなんです。
お母さんの周りにはオカマさんが一杯いて、みんな自分を蝶と言い張りますがどっちかというと蛾です。
でもみんないい人ばかりで、心はどんな人たちよりもキレイだと僕は思います。
お母さん みんな、いつまでも素敵な蛾でいて下さい。そんなみんなが僕は大好きです」
完
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