化学変化



帰り道。
潔子さんと帰ることができなかったあたしは大地さん達と一緒に帰っていた。


『そーいえば飛雄さ、なんで烏野に居るんだっけ?
白鳥沢行くって張り切ってたでしょうに』

「…落ちました、白鳥沢」

『……マジで?』

「はい。白鳥沢から推薦来なかったし、一般で受けて落ちたんです。試験が意味不明でした」

『おまっ…落ちたんなら連絡くらいしろよ!あたしがアンタの勉強にどんだけの時間費やしたと思ってんの!?』

「たくさんです」

『そうだよ!?』


飛雄は頭の回転がいい方ではない。だからなのか、教えるのにとても苦労した。教えてもすぐ忘れちゃうし、飛雄につきっきりが嫌なのか徹がすごくうざかったし。
確かに白鳥沢は普通に入ろうとしたら超難関だけど…!それをわかってて受けようとしたんでしょ飛雄は…!


「で、なんで烏野?まさかお前も小さな巨人≠ノ憧れて!?」

「…引退した烏養監督≠ェ戻ってくるって聞いたから」

「うかい?」

『無名だったかを春高の全国大会まで導いた名将だよ』


へー、と日向はつぶやく。
小さな巨人知ってて烏養監督知らないとかマジか。確かその頃は監督目当てに県外から来る生徒も居たらしいけど。


『「烏野の烏養」って名前がもう有名でさ。凶暴な烏飼ってる監督だっつって』

「2・3年生は去年少しだけ指導受けたけど、すげえスパルタだったぞ…」

「「……!」」

「…なんで羨ましそうなんだよ」


去年の指導を思い出したのか、スガさんは身体をブル…ッと震わせる。しかし日向と飛雄は羨ましそうに目を輝かせる。

烏養監督は本格的な復帰が決まっていたんだけど、復帰後少しして倒れてしまったのだ。まあ歳が歳だし…若い頃無茶してたらしいし。


今日の試合で日向は得点と同じくらい失点をしていた。あたし達には色々足りていなくて、今日の勝利もギリギリだった。
今の烏野は、根本的にメンバーが足りていない。


守備の要のリベロ。

連係攻撃コンビネーションが使えない時でも一人で敵の3枚ブロックと勝負できるエーススパイカー。

技術の指導や試合中の采配をとる監督・コーチ。


烏野にはもう少してで守護神≠ェ戻ってくるけれど、あの人が戻って来ない。

烏野ウチは強豪じゃないけど特別弱いってワケでもない。今までだって優秀な人材は居たハズだ。けれどその力をちゃんと繋げてなかった。


「でもまた皆が揃ってそこに1年生の新戦力も加わって……その戦力、ちゃんと全部繋げたら――…」

「……夏のインターハイ…。『全国』がただの遠くの目標≠カゃなく現実に掴めるもの≠ノきっとなる」


飛雄はアイツのことが気になるらしく、これから戻ってくる人は今までどうしてたのか聞いてきた。あー…答えにくいな…。


『……一週間の自宅謹慎と約1ヶ月の部活禁止だったんだよ』

「ふ、不良!不良!?」

『違う違う。てか不良て…』

「アレはな〜、ちょっとアツすぎるだけなんだよ。イイ奴なんだよまじで」


田中にアツすぎるって言われるとかどんだけだ…とか思ってんだろうな。


『それにアイツはね、烏野で唯一天才って呼べる選手だよ』

「まあ今はクソ生意気影山が入ってきたから唯一≠カゃなくなったけどな」


ソイツが戻ってきたら『先輩』って呼んでやんな。田中みたくバカ喜びすると思うから。
笑いながらそう言ってみんなと別れた。


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