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幸せ






僕はクラスの人気者だ。
いつだって誘いがかかってなかなか自分の時間が作れない事が目下の悩みだったりする。
なんて言うと自慢と思われちゃうだろうけど、僕自身は八方美人な自分が嫌になったりしてるんだ。断れないだけなんだよ。

そんな僕も、とうとう人には言えない秘密を持ってしまって、凄く悩んだんだ。

僕は同性を好きになってしまったんだ。

自分のそんな気持ちに気付かないように過ごしていれば無かった事になるのかな、なんて思っていたけど日々を重ねるうちに想いが強くなっていった。

そのうち、彼が傍に居ると動揺したり、彼の隣に座れなかったり、彼の目を見れなかったりしだして、そんな僕の態度に友人達が気付き始めた。

――蒼(アオ)はあいつの事好きだもんな

そんな友人の冗談を僕はまともに受け止めてしまったんだ。
しまった、と思った時はすでに遅くって、何かいい訳をしようにも逆におかしく感じるかと思って何も言えなかった。
変な動揺は肯定と取られてもおかしくない。冗談のつもりで口にしたのに、気まずい空気に頭を掻いて言葉も出ない様子だった。

絶望的だった。
これで僕は友人を無くすだろう。
そして片思いの彼にも「気持ち悪い」と嫌われて終わりなんだ。

僕はあまりのショックで翌日学校を休んだ。食事も喉を通らないし、何もする気になれなかった。
きっと学校に行けば僕は周りから避けられ、異様な目で見られるんだ。
そんな絶望感の中でも涙は出なかった。

ただ人を好きになっただけなのに。
なんて思っていても誰かに訴える事なんて出来ない。
同性愛は罪なのだろうか?
同性愛が受け入れられない時点で、それは僕自身に降りかかる罪に変わりないのだ。
いけないことをしている、と周りの視線が攻めてくるのだ。


そのまま引きこもれるわけもなく、僕は一日の欠席で学校へ向かった。
学校中に広まっているわけではなかったが、僕のクラスには間違いなくその話が広まっているようだった。

けれど、みんなの態度は何も変わらなかった。
どうせ冗談だろう、悪い噂だろう、と思うクラスメイトが殆どだったし、友人も僕の態度だけで勝手なことを言って申し訳ない、と逆に謝られたくらいだった。

やっぱり僕は恵まれているのだ。
クラスの中心で笑ってられる。僕の周りには今までと変わらず多くの友人が集まってくるんだっていう安心感。

ただ一つ。

僕の想い人だけは、そんな僕を冷たく見ていたけれど。

数日後にその視線の理由を知ることになった。


――あの噂、俺…嬉しかったんだ。本当は噂なんか消えなくていいって思った。蒼は俺のこと、友人の一人って思ってるかもしれないけど、俺は蒼の事…


思いがけない彼からの告白だった。


このタイミングでの告白を許して欲しいと、けれど自分の気持ちをもてあまして、どうしても伝えたかったのだと告げた。

もちろん、僕は彼にすぐに返事をした。
自分も諦め半分で君の事を想っていたんだ、と。
かなう事の無い願いだから、想うだけで良かった、伝えるつもりは無かった事を伝えて。

涙が出るほど嬉しかった。

噂の後だったこともあるし、もとより認められにくい同性愛だ、静かに二人で愛を育む事にした。
彼が傍に居るならどんな事でも耐えられる。
彼は凄く優しかった。
何度も夢なんじゃないかと思ったけれど、彼との思い出の時間は増えていくばかりだった。

お互い、バイトをして、溜めたお金で夏は海に行った。遊びすぎて溜めた宿題も、彼の家で泊まり込んで終わらせた。
同性だから親からは仲のいい友人なんだと思われる程度で都合が良かった。
学校では多くの友人のうちの一人というスタンスだけど、僕達は満足だった。


彼が傍に居るならば、どんな未来だって

僕は幸せだ。







 ***





「ねぇ聞いた?B組の井之上君の事」
「井之上君?誰それ」
「ほら、ずっと引きこもって学校出てこないって言う問題児」
「えぇ〜居たかな、そんな子」

「S中の頃から虐められて、うちの高校入ったのはいいけど一ヶ月かそこらで引きこもった子よー、知らない?井之上蒼。ほら、なんだっけ…ゲイって噂流れたんだっけ」
「あぁ!居た!城崎君が好きなんだっけ、いい迷惑だって城崎君が即ボコったんだよね」

「そう、その子!昨日自殺図ったらしいよ」
「マジ?」
「うん、でも失敗したらしくってさ、多分…寝たきりかもって言われてんだって」
「植物人間って事!?」





 ***





毎日、彼からメールが届くんだ。
心配性だったりするから、僕が友人と出かけるときはちゃんと帰宅したかって電話をくれたりしてね。
心配性っていうか、もうそれは嫉妬だろって僕が言っても彼は意地でも頷かないんだ。
こういう子供っぽい彼も凄く可愛くていい。いくらでも彼の表情を見ていたいって思える。

二人で大学生になったら、親にうまく言って一緒に暮らす事も考えているんだ。


僕は彼が居れば幸せだよ。
他に何も要らないくらいに。







END




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