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朝の匂い 02




家からは二百メートル。
しかしそれは結構な通りに面していて、駐車場もそこそこ広いため利用者が多かった。

そんなコンビニの昼時。

「ちょ、っ…」

あまりの人の多さに入るのさえ躊躇うほど。しかし自分は此処しか店を知らないので、なんとか買い物しようと店内に入ったのだけど、ちょうどお弁当コーナーの辺りには社会人とOLが溢れていた。

「あ、ごめんなさいっ」
「いや、すいません」

手を伸ばし、簡単におにぎりを一つ取ろうとしたところで、レジに並ぶ人に押されておにぎりを取り損ねた。おまけにその伸ばした腕は隣に立つ人と接触する始末。
謝るOLの手元には春雨スープ。
インスタントラーメンもストックしておけば便利だな、とぼんやり考えた。
しかしその思考はすぐに切れる。ぶつかってきた女性の後ろに、もうニ、三人が並んでいた。もうひとつのレジにも五名ほどが並んでいる。
お昼のコンビニの利用者に驚きつつ、働きもしていない自分が働いている人に紛れて昼飯争奪に加わっているのも申し訳ない気持ちになって、結局何も買わずにコンビニを出る事にした。

どうしよう。
店内の時計はまだ昼を回ったところだったから、時間はたっぷりある。
せっかく天気もいいことだし、コンビニしか店を知らないのもどうかと思うので、ここらで違うお店を探すのも良さそうだった。
スーパーならなお更。市場なんて物があったら最高だなぁ、なんて思いながらとりあえず大通りに沿って歩く事にした。

都会の大通り沿いって言うのは凄く空気が悪い。少し歩くと綺麗な空気が吸いたいと思うようになって、角を曲がった。
どこをどう歩けばスーパーがあるのか分からず、とりあえず大通りに戻れれば家へは帰れるだろうし、このまままっすぐ歩いて大きめの道を見つければ何か店はあるだろう。

そのときの俺は時間の余裕もあったし、そんな単純な考えで、立ち並ぶ住宅街の町並みを眺めながらゆったりと歩いていた。

隣の四兄弟の長男は都会に就職したと聞いた。高校に入った頃から遊ぶ事もなくなって、会話もすることがなくなって、親からの情報しか耳に入っては来なかった。
もしかしたらあの長男はこの近くで根をはり生活しているのかもしれない。結婚したとは聞いてないけど、いや、親が俺に言わないだけかも…もう俺より三つ年上の長男は三十三歳になっているはずだ。結婚しててもおかしくない。
母さんは俺に結婚しろとは言わなかった。父さんは家を守って欲しいとだけ言い続けた。それが俺に結婚して男児を授かることを意味しているのは分かっていたが、お父さんが癌で病床に伏せるようになると、何も言わなくなった。
きっと、胸の内では思うことがあっただろう。

今なら、なんとなく分かるけれど。
自分が血はかすかに繋がってはいても本当の息子ではなかった。
子供に恵まれなかった両親が俺を養子に迎えるくらいだから、お父さんはこの血縁を絶やしたくない一心だったのだろう。
俺はあの家を出てきて良かったんだろうか?
母さんが良いと言ったけど、亡き父さんの思いは…。

考え出したらきりがない。


歩いた先に大通りがあった。
その向こうにアーケードが見えたとき、自分の心が躍りだすようなのが分かった。
田舎には駅前にしかなかった商店街だ。
駅までも車で出るような町だったから、歩く距離に商店街がある事が嬉しくて仕方がない。そしてコンビニよりも安くで物が手に入るだろう。

その商店街はなかなかの大きさだった。
遠目では小さく見えていたが、長く四方に伸びている商店街だった。
目の前に八百屋があったが、もっと奥に足を運んでみれば他にも八百屋はありそうだ。

混んでいるところ、空いているところ、雑貨屋、と目につくものすべてに足を止め、揚げたてのから揚げを売っている鶏肉屋では思わず涎を垂らしそうになるくらい刺激された。
たくさん見て回ったものの、一つのスーパーに入るとコンビニとは比べ物にならないくらい安く売られているおにぎりを籠に入れて、明日から自分でも何か料理ができれば、と思い少し食材も購入することにした。






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