短編 | ナノ
06
たっぷり時間を取って、ゆっくりとベッドから起き上がった。起きたことによって、またパタパタと涙がこぼれていった。
尚のことになると、泣いてばかりで・・・
「成」
「・・・尚、ゴメン。俺なんかと幼馴染で、ゴメン。気持悪くてゴメンな」
「成・・・」
「諦め、るから。今頑張ってるところだから。もう少し、まってよ。もうちょっと、嫌な・・・っ、思いさせるかもしれない・・・けど」
ふわり、と尚が俺を抱きしめた。
反射的に抵抗しようとした。けど、その腕も上げられないくらいの密着。
「な、尚、ちょ・・・っ」
そんなことされたら意思が弱まる。俺のこと・・・抱きしめないで。
「成、お前の気持、もっとぶつけろよ」
「えっ・・・?」
「だから、お前の・・・気持っ」
「俺の、気持ち?」
「おま、バカか。それ以上言わなきゃわかんねーのか。・・・成の、俺に対する気持だよっ」
何を言っているのかさっぱりだった。俺の気持?尚に対する?
今更言った所でどうにもならないじゃないか。今更言葉にしなくても尚は判ってるじゃないか・・・。
どこまで俺を傷つければ気が済むんだろうか、尚は。
「も、やめて・・・・もう傷つきたくないんだ。離して、尚」
「離さねぇよ。ちゃんと言えよ」
「ッ・・・ヤダよっ!・・・諦めようと、頑張ってんのにっ!そんなこと言うなよっ・・・まだ傷つけ足りないのか、よ」
「諦めんじゃねぇよ」
な、何を?なんて?
尚はなんて言った?
「・・・なに、言ってんの」
「諦めんなって。もっと来いって」
「意味、わかんない。だって、尚、俺、ふ、振られてるしっ」
苛々しているのか、小さく舌打ちをして、俺から離れた尚はベッドに座っている俺と目線を合わせるように隣に座った。
「だからっ、もっかい言えよっ。俺が好きだって、言えよ!・・・・受け止めて、やるからっ」
「は、はぁっ!?」
「ばか、俺に言わせんじゃねーよ!早く言えよ」
「だ、だって俺嫌われて・・・」
「嫌ってなんか、ねーんだよ。・・・・っ!早くしねぇと気が変わるぞ」
「ま、ままままって!す、好き、好き。尚、だ、大好きっ・・・」
「・・・俺も」
「・・・は?」
「は?じゃねぇ、てめぇ!そこは嬉し泣きとかじゃねぇのかよ」
「や、意味が飲み込めてない、というか」
「くっそ、色気がねぇ」
苛々して髪をかきむしると、少し考えてから深呼吸して、また俺に向かい合った尚。
「成・・・卒業式の時の告白は、驚いて思わず跳ね除けた。でも、しばらく経ってみて、お前が俺の隣からいなくなるとか・・・根本的に考えられなくって、この一年、もどかしかった。
お前が、もう一度告白してきてくれねーか、ってそんなことばかり考えてた。女、連れ込んだのもお前にヤキモチ・・・妬かせたくって・・・・そりゃ、女騙せなくって何度か寝たけど・・・でも、・・・・お前だけなんだ。好きなのは、お前だけ」
「・・・う、そ・・・」
「嘘で男に告白できるか。」
「マジで?俺のこと、好きなの?」
「あぁ」
「・・・・・」
流れる涙を尚が指でぬぐってくれる
そんな優しいこと、してもらえるなんて、夢にも思わなかった。
「俺から言えたら良かったんだけど・・・そんな勇気が無かった。お前はこんだけの思いを俺に告げたんだと思うと、ほんと、スゲーって思ってた。・・・辛い、思いさせて・・・ゴメン」
「ン・・・」
尚と交わしたはじめてのキス。
想像でも、妄想でもなくって、本物の唇。
あの時、告白してなかったら、今日の俺たちは無かった
隣同士になったことも、同じ年に生まれたことも
すべてわずかな確立のなかの奇跡なんだ。
END
20071026
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