短編 | ナノ
冬 3
テンション高めに仕事をこなす俺を見て、バイト先の店長は彼女も出来たか、とぼやいた。
俺が集まりに出る頃はもう散々上がりきってるだろうから、テンション上げて挑まないとシラけさせることになる。
「――お先っす!」
タイムカードを突っ込んで、足早に店を出た。
さすがクリスマス。街は人がいつもより多いように感じた。
真っ暗な空と目の前のイルミネーションは凄く幻想的だ。
小走りで駅前の人ごみを抜けながら携帯の時計を見ると、何とか最後三十分くらいは楽しめるんじゃないかって時間。
たった三十分だけど、その三十分にこんなにも必死になる自分も笑える。
けど、楽しい今だから、この「今」を思い出にしておきたい。
それだけだった。
来年は皆が皆同じように馬鹿やってられないし。
「夕飛おっせーよ!」
扉を開けると同時に、激しい音楽と幹事の罵声が飛んできた。
「いやいや、予定より10分早く着いたし!頑張っただろ、俺!」
カラオケの音に負けないように声を張る。
一番手前の空いた席に腰掛けて、メニューを取り上げた。
「ドリンク追加ある人〜ついでに頼むけど」
斜め向かいに座っている薫がコーラ、と声を出し、続くように上がる声を頭に入れる。
「で、どうするよ夕飛の罰ゲーム」
「なんだよー働いてきた人間にいきなりソレかよ、とりあえず乾杯させろよ!」
受話器を取り上げて、数コール。
俺がドリンクの注文を掛けている間に後ろでは口々に意見が飛び交ってる。
勉強以外だと皆積極的で笑えるよな。
大量の注文を終えて振り向くと、興奮してる奴等と目が合った。
「…な、なんだよ」
「夕飛の罰ゲーム決まった」
「変な事させんなよー俺今来たとこなんだからお手柔らかに…」
「この後、駅前のツリーの前で一人で立つってどう?そうだなー30分くらい」
「はぁぁぁ?寒いし!あんなとこで俺が一人で突っ立ってお前等楽しいわけ?」
「いや、やってみたら分かるって」
皆ニヤニヤしてる。
まあ、罰ゲームになってるのかわかんねぇけど、それでいいなら良いや、と俺は了承した。
「じゃぁ今回、罰ゲーム免れた人挙手!」
手を上げた奴の中に薫が居た。
「ではその幸運の…えーっと、いち、にい…4名にはコチラ!」
そう言って、幹事が持ち出した紙袋の中には、昔から良くあるサンタのブーツ型の中にたくさんお菓子が入ってあるアレだ。
ただ、異様にでかい。紙袋には一つしか入ってなかった。
「これをプレゼントー!ここには一つしかないけど、店に置かせてもらってるので、後で取りにいってきまーす。ちゃんと持って帰ってくださーい。」
「つうかでかすぎるし!幹事!」
「ソレ持って帰るのが罰ゲームじゃねぇか!」
ワイワイと賑わうクラスメイト。
幸運な薫に、あのブーツの中身を分けてもらおう、なんて考えてた。
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