短編 | ナノ
冬 2
「で、どこで出したの」
昼休み、学食を食べ終えて、広い廊下に並べられたベンチに薫と腰を落として、ホットコーヒーを啜っていた。
目の前にはあの帯状のガラス窓。
ゆっくりと降り続く雪で、真っ白の帯が出来ている。
「無難にS大に…してみたけど」
「何その言い回し」
「薫みたいに何かやりたいこと持って行くわけじゃないからさ。そこでいいのか〜?みたいな」
「まぁ、選択絞った中でやりたいこと見つけても良いんじゃないか」
薫とは今までの関係に戻ったように振舞った。
思うように薫に接触するし、薫の家にだって今まで通りお邪魔してる。
薫の気持ちは分からない。
整理が付いたのか、付かずに抑えて過ごしているのか。
薫がこれでいいのだと思うのなら、それでいいだろう。
明日なんか分からない、来年の自分達も、その先も、分からない。
怖がりながら、多くの犠牲を負いながら生きていくよりかは良いんだろう。
「薫、夕飛!」
呼ぶ声に顔を上げると、食堂から出てくるクラスメイトが手を振っていた。
「お前等聞いたかー?」
見当も付かない質問に俺と薫は首をかしげた。
片手には携帯を開き、そのスケジュールにはたった今書かれたのだろうか、予定が入っている。
「12月25日。思い出つくろう会、参加は自由」
「なんだそりゃ」
「クリスマスに?」
俺も薫もマジマジとその携帯画面を見つめた。
「またメール送るからさ。日も無いし簡単に飯食ってカラオケコースだと思うけどな。薫も特進だろ?特進行くともうなかなか会わなくなるし。だから年末にこのクラスで思い出作ろうぜ、って話になってな。皆でパーッとどうよ?」
薫を含めて同じクラスから特進に進む奴は数名いた。
校舎も違えば選択授業の種類も違ってくるとなかなか会うことも難しくなる。
「じゃー、俺参加」
薫と同じクラスで過ごすのももう最後だ、最初で最後のクラスメイトとしての思い出作りになるのなら。
「あ、参加はメールに返信してくれよ。俺幹事じゃねぇし。んじゃな」
そう言ってクラスメイトは行ってしまった。
「薫も参加するだろ?」
「…あぁ、まぁ俺はな。でも夕飛…参加表明してたけど、お前バイト入ったって嘆いてたんじゃ…」
「……う、うわぁぁぁ、マジだ!」
すっかり忘れていた予定に頭を抱えた。
クリスマスにバイトって悲しいよな、24日じゃないだけマシか?なんて薫に愚痴った所だった。
代りに入れる奴が居ない事はシフト上がった時に聞かされたから、バイトには行くしかない。
「泣きたい。えぇ〜っ、何時までやってるだろ。バイト21時半上がりだけど…無理か?」
「さぁな」
「冷てぇな!薫、何とかしろよ〜」
「幹事に言えよ」
その日の晩、幹事からの一斉メールが届いた。
ファミレスからのカラオケで解散予定は10時半。
バイトがあるが何とか駆け込む、と返事をしたら、間に合わなかった場合の罰ゲームを用意するって幹事から返ってきた。
まぁ、俺だけじゃなく参加者皆が一人ずつ当たって何かしら罰ゲーム用意されてるんだ。
それが俺たちのクラスだから。
何でも受けて立つ、と応えて携帯を閉じた。
一時間も楽しめないかもしれないけど、多分、これが最後のお祭り騒ぎとなるだろうから。
このクラスでの思い出、このクラスで過ごした時間も大切だから。
そこに薫が居たってだけでも、凄い事だし。
同じクラスにならなかったら俺は薫の事を知らずに居ただろう。
凄い事だ。
だから、見るものを、俺が見ている今の薫をしっかり記憶する。
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