短編 | ナノ



冬 1






配られたプリントを眺めながら、小さく溜息をついた。

「おい夕飛、お前どうすんの」
「えぇー、どうすっかな。考えてねぇしなぁ〜」

前に座ったクラスメイトが話しかけてくる。その手には同じく進路希望と書かれたプリント。

「オレも。なーんも考えてねぇわ。やりたいことなんて言われてもなぁ」

だよな、と頷いて、薫に視線を送った。
やりたいことも、自分の進む道も、自分で考えて決めていた薫。
表には感情を出さなくても、自分の意思がはっきりとしている。そこに俺に対する気持ちが含まれていることに優越感さえ抱く。

しかし今、ぽっかりと空いた気持ちを埋めれないでいるのも事実だ。

誰にも知られることなく始まった俺たちの恋愛は、誰にも知られないまま静かに終わりを迎えた。
自分達の感情を放り投げたまま。

分かっている、あのままでは駄目なんだって。
多感な時期の過ちだったのだと、此処で終わらせておかなければ成らない事くらい、分かっている。

温くなった教室の空気を、入れ替えるように担任が窓を開けた。
重たい雲が広がっていた。いつのまにか、季節は冬になり、変な気候が続く今年はクリスマスを迎えてもいないのに、一度だけ大雪が降った。
目を瞑れば、薫を追いかけた春、桜色の帯を作るあの窓ガラスが思い浮かぶ。
この間、雪の降る日にあそこを歩けば、眩しい白の帯へと変わっていた。

変わる、変わる。
変っても、また春が来ればそこに同じ情景が映る。
戻ってくる、季節。
けど、きっと戻ってなんかない。
何かが少し違っているはずだから。
次の春、桜色の帯が薄い色をしているかもしれない――。

不変なんて、ないんだ。
全ては変っていく。
留まろうとすれば苦しいだけ。身を流すには力が要る。

「こら、寝るなよ」

ポン、と担任に頭をプリントの束で叩かれ、落としていた頭を上げた。
抜けていく冷たい風に身を縮めた。

「進路に迷ってる奴は相談受けるからな。そしてこのプリント、来週中には――…」

担任の言葉は懇々と続いた。
俺は上手く変れるだろうか。
きっと変った俺の力となるのは、その源となるのはほんの少しの薫なんだ。
今までも、これから先も。

プリントに名前を書き込んだ。
志望校は決めてない。薫と肩を並べる事は俺には到底無理だ、だから、俺にできることをするしかない。かっこ悪くたっていいから、それでも薫と今まで通り腐れ縁で付き合い続けるためにも、俺だけが留まっていては駄目なんだ。

終わった事だと。
そう思えるように、一歩足を踏み出さなくちゃならない。

「薫は?お前ら、一緒のとこ行くのか」

前の席の奴が再び振り返る。

「んや、腐れ縁は高校(ここ)で終わりだな。薫はもう決めてるみたいだし、俺には到底敵わないよ、頭が」

薫が目指す大学を口にしてやると、さすがだな、って答えが返ってきた。
この学校からその大学を目指す奴は少ないわけでない。

「しかし薫も来年は特進なのか。このクラスで馬鹿やってられるのももう少しなんだな。そう思うと寂しいなぁ。夕飛は来年も俺と馬鹿やろうぜっ」
「あぁ、来年も馬鹿やってる“お前”が目に浮かぶよ」
「夕飛お前もだろ!馬鹿度はお前の方が上だって」

夏休み、体育祭、文化祭、その全て楽しい思い出しかない。
薫と共にクラス行事を楽しんで、その打ち上げでは馬鹿やって。
罰ゲームを嫌がりながらもオイシイと進んでやったり、そんなことももう出来なくなるんだろうか。少なくとも、受験を前にしたら制限は掛かってくるだろうな。

大学に入っても、そんな馬鹿できるだろうか。薫と。






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