短編 | ナノ



秋 3





俺の気持ちはその薫の考えに乗っかってないじゃないか。
薫の一方的な考えで、勝手に完結して。

俺の気持ちはどこへ行くんだよ。
離れたくないと、こんなにも胸が痛くて。
泣きそうな薫の姿に、こんなに胸が苦しくて。
この気持ちじゃ駄目なのか。

俺のこの気持ちは、薫を好きだと、そう表しては駄目な事なのか―――



「夕飛、」

理解なんか、したくない。
薫の考える難しい事、俺には分からない。
けど、思うまま動いただけだ、そこに嘘はない。

「ごめん夕飛。けど、俺だって、…俺だってさ、」

だから、否定はしてほしくなかった。

優しく薫の腕が俺を包み込んだ。
いつだって優しくて、頭がいいから俺よりもずっとずっと先を見つめてる。

「いいんだ。俺が夕飛を好きなことには変わりないよ」
「よくねぇよ!なんで薫は俺を認めないんだよ、――っ!?」

俺を押し倒した薫は、静かに俺のシャツをめくり上げた。



「っ、」

薫が、ずっと耳元で囁いてた。
それは気が狂ったように――、唱えるように。
“これが俺(薫)だ”と訴え続けた。

俺の肌に触れる、薫の肌の熱さ。
きっと俺は忘れられないだろう。
初めて知る、同性の体の熱を、受ける側として感じたことを。
今までの馴れ合いなんかじゃない、本気の薫の気持ち。
俺の全てを雁字搦めにして、逃げ道なんてそこに引かれてなくて、ただただ薫の腕に捕らえられる。

手の動きは緩やかなのに、薫の迫力が俺を押していく。
あの静かで、優しくて、控えめな薫がそこには居なかった。
俺を一度も逃がしてはくれなかった。
それに対して恐怖は感じなかった、けれど、ただ、申し訳ない気持ちが自分を取り巻いていく。

俺はずっと、こんなに重くドロリとした気持ちの薫に気付かないで居たのだ。
いつだって俺を包み込む優しい心。だが実際はどうだろう、俺を少しも許さないというくらい重たい感情が渦巻いていたのに、俺は何一つ出させなかった。

なんという拷問だ。

薫の頭を抑えて、俺から静かに唇を落とした。
シンデレラが、王子のキスで目覚めるように、薫の気持ちがすこしずつ静まっていく。

「夕飛……」

何度も息を吐き、息を止め、言葉を止め、切なくどこか諦めた表情の薫に、俺はただ見つめる事しか出来なかった。

「夕飛、ごめんな。もう、やめような…」

薫がどれだけ自分を抑えてこの言葉を口にしたのか。
どれだけの環境が薫をここまで押さえつけているのか。
俺の生半可な気持ちでは薫の表情から全てを読み取る事は出来なくて、ただ、ただ、俺は…悲しくて寂しくて

――悔しくて。

うな垂れるしか出来なかった。
漏れそうな、うめき声を抑えるように口を覆った。

出すわけにはいかなかった。

「分かるだろ、夕飛」

好きだと、こんなにも感じるのに。
言葉で言われなくともこんなにも伝わるのに。
言ってくれてるのに。
訴えてくれてるのに。

簡単には踏み出せない。
今此処で止めてしまわないと、俺たちの先のために。
薫の描く将来のために、薫が思ってくれる俺のために。

俺たちのためなら、俺たちの人生なら、どうなっても構わない

そう、言えたら、言って行動に移せたらどれだけ楽だろう。
周りの事考えずに、世界には俺たちしか居ないんだって、自由奔放に生きていけたらどれだけ楽しいだろう。
薫とずっとこの関係を築いていられたら――


薫と共に。そのために今この決断をするんじゃないか。





秋:END





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