短編 | ナノ



秋 1





夕暮れに秋の気配を感じても、なかなか気温は下がらなかった。
日中は蒸し暑かったし、夜はアスファルトの熱が上がってきて寝苦しいほどだった。

それでも、時が経てば確実に冬に近づいていて。

「しくった」
「だから言ったのに。羽織るの貸すから」

そう言って家に入っていく薫の後ろを付いて、俺も家にお邪魔した。

今日は薫の買い物に付き合っていた。
昼から出かけた事もあって、俺は悩んだ末にシャツ一枚で出たけど、日が暮れると急に冷え込んできて、一つ身震いした。

薫の言葉に甘えてシャツを借りて帰ろう、家はとても近所だけど。

肌を撫でる冷えた風も、長い夜の始まりにどこか人肌恋しくなっているのかもしれない。
秋って別れの季節でもないのに、悲しくなる。
薫の後ろを歩きながら、そんなことを考えるようになった。

夕方には帰宅している薫の母に頭を下げ一言交わしてから薫の部屋に向かった。

「ほら」

投げられたシャツの袖に腕を通した。
一枚増えるだけで凄く温かい。

「風邪引くなよ」
「ん、風邪は大丈夫だろ。ホットファンタ飲んだら何でも治る」
「っ、え、何を根拠に…、そういうところが馬鹿は何とか、って言わせるんだろうな」
「風邪引いたって何一つ良い事ないんだから馬鹿の方が良いんじゃね?」
「なんか違う」

クスリと笑った薫の微笑が、そのとき少し遠く感じた。
同じ時間を過ごしているのに薫が凄く大人に見えた。
高校二年生の成長なのだとしたら、俺も少しは成長してるだろうか。
あの時よりも、薫の事を判ってやれてるだろうか。

「薫…勉強?」
「ん?あ、あぁ…」

薫の机の上にあるのは学校で使うものではない問題集や分厚い参考書が置かれていた。

「え、ガリ勉…?いや、お前頭いいし、勉強する必要ねえって」

一冊手に取ると、思ったとおりずしりと手にくる。
俺なんて開く気にもならないだろうな…。

「……行きたい大学、あって。それに向けてやってる」
「マジ?」

どこの大学かと、問い詰めれば、俺の想像を超えた大学名を上げられた。
そこって、そこに行くって事は。

「俺…そんな頭ない、けど」

「夕飛に付いて来てもらおうなんて、思ってない」

「そりゃ、」

寒くもないのに、鳥肌が立った。
怒りという感情でもない、なんていうか、全ての感情がそぎ落とされる感じだった。

そりゃそうだ。
薫の頭と俺の頭なんて比べ物にならないのは知ってたし。
けど、そんなこと…いや、先のことなんて俺は考えた事なかったんだ。

「夕飛は夕飛で良いんだよ。俺は俺だから。…だから、行きたい大学に行く。行きたい道へ進む」

それは暗に、ずっと一緒はありえないのだと言われているようだった。
ずっと一緒だなんて約束はしたこと無いけど。けど――。

「そうだな。…まぁ今からやってるんだし、薫なら確実に入れるよ」
「だといいけど。頑張るよ」

はにかむ薫の表情は、今まさに距離を表していた。
大人っぽくなったと思ったのは間違いなかった。

「――…上着、さんきゅな」

他愛のない話をしばらく続けて、上着の礼を言って薫の家を出た。
借りた上着を握り締めるように、肌寒い夜道をすぐそこにある自宅まで歩く。

俺が考えている未来はなんだ?
薫がすでに描き始めてる未来はどんなものなんだ?

当たり前のようにこの年齢まで共に過ごしてきて、初めて違う道を歩いていく時が迫っているのだろうか。考えもしなかった。
薫の行きたい大学に自分が入れる訳もない。
だからといって、薫に付いて行くつもりもない。
薫が言ったように、俺は俺だから。

二人の関係がこのまま続くのだろうか?
ずっと、続くのだろうか?
先のことなんて、考えた事無かった。
一体いつまで?
終わりがあるのか?


その終わりが、来るのなら、俺たちは…

昔の俺達に、元に、戻れるのか?


それとも――。








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