短編 | ナノ



夏 4





感情に飲まれるように、自分の体温が上がっていく。

「っ、は、かぉ…」

止めることも出来ず、薫の名前すら呼ばせてもらえない。

そうか、薫のさっきから熱は、この熱だ。
自分の体温が、先ほどまでの薫の高い体温と変わらない。
俺が部屋に居るだけで薫はこれほどの熱をもてあましていたんだ。

名残惜しそうに、薫の唇が離れていく。

「好きだって言うなら分かってるよな。けど、夕飛が思ってるものと絶対違うから。断言…できるから」
「…何の、断言」

酸欠になったのか、なんだか頭が痛かった。

「夕飛の思ってるような生易しいもんじゃないんだよ。ずっと、酷い事ばかり妄想してんだよ。付き合い始めたって、体の関係持ったって、きっと俺は今以上お前を離せなくなるし、俺…、俺は、夕飛にずっと、触れてたい」

静かな、薫の声。
ずっと、抑えて抑えて、紡ぎ出される欲望。

「――ただ、夕飛が好きなだけなんだけど、さ。欲望に負けそうになる。欲望にのまれて訳わかんなくなりそうに、なる」

もどかしかった。
俺がじゃなくて、薫の恋心が。
叶わぬ思い、叶えた思い。
叶えたはずなのに、俺が応えきれていないから、こんなにももどかしい。

「俺が女だったらよかったのにな」

そうしたら、わずかでもその気持ちが軽くなるような気がして。
戸惑いも、躊躇いも、そこまで薫が追い詰められることも無いんじゃないかって。

「夕飛は夕飛だろ。俺は男のお前が好きなんだって…」

胸が苦しくて、応えてやりたくて。
今なら勢いでその願い叶えてやれる。
ずっと薫の前に居てやる。

それで気が済むのならいくらでもしてやる。

けど、…けど。

きっと薫はそれを望んでいないだろう。
俺が応えてやっても薫は自分を押さえ込んで、最善を優先するんだ。
俺が知ってる薫は、俺みたいに後先考えずに行動する馬鹿じゃないから。

「…ありがとなぁ、薫」

薫の掌は熱かった。

薫が居るから、今此処に俺が居る。
自分の歴史に、薫が居ない事はありえない。
それは俺だけじゃなくて、薫にとっての俺も同じで。

「ゴメンな、夕飛」

握った手が、指が絡むように、触れた唇から優しい舌が絡んだ。
ゴメン、と呟きながら薫が俺の肌に触れた。
熱い掌が、腹や背中に触れるのが心地いい。

暑い暑いと言いながら、それでも相手の温度を求めるなんて、恋愛ってすげぇ。

「まっ――、か、薫っ」
「だからゴメンって言ってる」

「んんっ」

向かい合う形で、薫に弄られる。
今までにない自慰の感覚に俺は翻弄された。
恥ずかしさで、どうにかなってしまいそうで。
けど、恥ずかしがると薫の視線が、ものすごくて、まるで録画されてるような感覚になる。きっと薫の記憶に鮮明に残されていってるんだろう。

駄目だと言ってもやめてもらえそうにないから、俺は全てを委ね、ビックリするくらい気持ちよく白濁を飛ばした。

「気持ちよかった…?」

多分、見て取れるほど俺はヘロヘロになってるんだろう。
安いピロートークかよ、と突っ込みたくなるような、そんなセリフを吐くほどに。

「今の夕飛、写メりたい」
「馬鹿かお前!脳に焼き付けとけ。つうか、写メは、俺がやる!」

薫を押し倒し、ベルトに手を掛けようとして静かに止められた。

「なんで」
「いいから。俺はいい」

こんなにパンパンにさせてか?どんな信者だよ。何を崇拝してんだよ。なんの、我慢だよ。

「俺だけこんなの恥ずかしいだろ!薫も道連れだ」
「ほんと、俺はいいから…さっき抜いてるし、大丈夫だから」

さっきも…って、アレか、アイス取りに行ったときか!

「さっきって!おい!ってか、やっぱ駄目、出せ。俺だけ恥ずかしい思いしてるとかズルイだろ」
「いや無理、薫だけで良いんだ、そこはもう俺の自己満足で」
「おま…、ま、その、アレだ、恥ずかしいなら後ろ向いてもいいから俺は見ないから、でも脱げ」

どんな触りあいっこだ。
とか言いながら、結局薫は後ろから俺に弄られて出した。


友達の延長戦のように。
けど、そこが薫の言う「違う」って事なんだろうなぁ。
俺には違いが見つけられなくて、なんなら俺も同じくらい思ってんだけど?なんて言っても説得力はなさそうだ。

俺たちの夏は、バイトと、花火と、ダチと遊んでるうちにあっという間に埋まった。
薫と二人で会うこともそこそこあった。お互い二人の時間は作ろうとしたから。

二人で会っても抱き合い、キスまでしか触れ合わなかった。挨拶程度だったり、濃厚だったり、キスの種類はさまざまだったけど、それ以上を求めてこようとはしなかった。

薫がそれ以上は拒むから、触り合うことすらなかった。


今年の夏は、ものすごく暑かった。





夏:END






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