短編 | ナノ



夏 2





薫には姉が居る。この前、結婚して家を出たところだ。
薫のの両親は共に働きに出ている。
小学生の頃は、よく俺の家にに来ていたもんだ。
学童に通う薫が先に帰る俺と共に帰宅しようとして、それを止めるのに俺も付き合って門の前で放課後を過ごしたこともあった。

「お邪魔ー」

幼なじみだって言っても、最近ではお互いバイトなんかで忙しかったり、遊ぶなんて学校帰りにどこかへ行くくらいで、薫の家に来るのは結構久しぶりの事だった。
付き合うとなってからも、公園ベンチデート(仮)とか、ファーストフードでお茶するくらいで家に上がる事はなかったから。

薫の家はあちこちがスッキリしていた。
姉が出て行ってから大掃除でもしたのかも知れない。

「アイスすぐ食べる?」
「んにゃー、とりあえずお茶クダサイ」
「じゃあ先部屋に上がっててクダサイ、持って行くから」

キッチンに入っていく薫の姿を見送って、階段を登る。
モノトーンに統一された部屋に入ると、一番に窓を開けた。
外に比べるとずいぶん涼しいものだ。

「あれ、クーラー付けなかったのか」

すぐに入ってきた薫が入り口近くに転がっていたクッションを足で隅へと追いやった。

「節電だろーってか、お洒落な部屋だな。俺なんて小学校の頃と大差ないぞ?」
「共働きだからな、そこそこ金あんのか誕生日だしつって、言えば色々買ってもらったりしたしな。物捨てるのも好きだし、俺。夕飛はアレだろ、掃除とか整理整頓しねぇから未だに小学校の教科書あるんだろ」
「……あったりまえじゃねぇか」

プフッっと噴出した薫の表情が、なんだか久々に見た気がして、一瞬空気が小学生の頃に戻ったようだった。
特に幼なじみだとは思ってなかった。何人か遊ぶ仲間の一人で長い友達。

なのに、ここに来てこんな事になるなんて考えもしなかったよな。

未だ脳裏に浮かぶのは、あの時の俺に言葉を告げた薫の姿。
今まで見た事の無い薫は、どこかに行ってしまいそうで、消えてしまいそうで。

舞い散る桜に連れて行かれるような感覚さえ起こしたんだ。

「夕飛?」
「ん、あ、あぁ。ぼんやりしてた」
「暑かったしなぁ。これ、お茶」

目の前に置かれる麦茶に意識を戻される。
近づいた薫の体温が一瞬伝わる。
お茶を置いて、引き戻される腕を、その体温に釣られるように、引き止めた。

無言で驚いた表情を見せる薫。
薫のその表情に奪われたのは一瞬で、その触れた体温に驚いた。

「薫、熱中症とかじゃねぇ?」
「…、な、何が」
「この腕…すげぇ熱持ってるけど?」

ほら、と体に這わせた掌はその薫の熱を伝えてきた。
風邪の時、このくらいになるよな、とぼんやり感じながら、薫の額に手を当てた。

「薫、熱あるって!風邪か?」
「大丈夫だろ、ほら、外から帰ってきたばっかりだし、こんなもんだって」

笑いながら俺の手を退けた薫の表情は悪いものではなかった。
体調が悪いわけではなさそうだけど。

「大丈夫だって、なんだよその目。アイス食べたらすぐに引くだろ。持ってくるわ。夕飛はまだ要らない?」
「薫が食うなら、食う」

腰も落とさす、薫は再び部屋を出て行った。

俺は目の前の麦茶を一口飲んで、床に置かれた音楽雑誌を手に取った。





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