短編 | ナノ



夏 1






梅雨明けした空は凄く澄んでいて、見上げたら綺麗な緑色の木々が視界に入った。

遊具など何一つない。散歩をする人やジョギングする人が休憩をする…その程度しか出来ない小さな小さな公園のベンチ。

昔懐かしいベンチは座るとギシッと音がする。
俺の隣には薫が座ってて、それが当たり前だけど、今の俺達はどこかこそばゆい。
薫の腕が真上に上がり「ん」と声を出して一つ伸びた。

木陰のベンチで、なんていうか、その。

下校に見せかけて俺達はデートしてる。

俺達に大した変化はなかった。
今までと何も変わらないように見えた。
けど、俺はあの日、あの桜の舞う中での薫が忘れられなくて、俺を突き放そうとした薫の想いを考えると、少しでも傍に居て今までと変わらない俺を見せなくては、と思ったんだ。

自慢じゃないが、俺は告白なんてものした事ないから。
薫の告白がどれほど大変な物なのか、想像も付かない。

けど、俺の知らない薫の姿を見て、俺は初めて恐怖を感じた。


「あっちいよ。薫、アイス買ってきてくれよぉ」
「なんで俺が行かなきゃなんねぇんだ」
「俺が困ってんなら行けるだろうー!?愛する俺が干からび死んでいく姿見たくないだろっ!」
「お前の下僕になった覚えはない」

そう言いながら、眩しそうに俺を見る薫の視線が…実は好きで。
実際のところドキドキしてたりするんだ。

以前と変らない、変らないけど、俺はずっとそんな視線で見られてたんだって思うとなんか、凄く、不思議で…。

「下僕になれって言ってんじゃないだろ、俺のためにできることを提案してるんだって」
「お前のために動いた俺が干からびる」
「大丈夫だって、お前は自己管理がしっかりしてるから」

「…馬鹿か」

あっちぃ、と薫が夏服を仰いで空気を送る。
もうこの場所で時間を潰す事は無理だろう。
木陰と言っても気温は日々上がってきていたし、暑さで毎日同じような話題しか出ていない。

「ってか、昨日も同じような事言い合ったしな。マジあちい。暑くて頭回んなくなりそう」
「んじゃぁ…夕飛、俺んち来る?」


「…おう」

「なんだよその間は」

意識しないようにって思うほどに自分が挙動不審だったり、どもったりしてるのが分かってて。そんな俺の事、薫の方がもっと分かってるだろう。
だから、俺は謝らないし、言い訳もしない。

「外でデートしてても暑いだけだしなっ。うちならクーラー付いてるし、テレビもある。アイスだって買って帰ろう?」
「デートって言わねぇっての」
「学校帰りに木陰で二人、毎日時間潰してたらデートと一緒だって。つうか、初日にデートだなって言い出したの夕飛だし」
「……いらねぇこと覚えてんなよ」

じっとりと汗ばむ肌に、風が気持いいと思っていたのも数日前まで。
ベンチデートの限界。

「薫、行くぞ」
「ん?」

「お前んち、行くんだろ!」

立ち上がって、ジリジリと音が聞こえそうな日向に足を踏み出した。
焼け付くような日差しの中、俺は黙々と薫の家に向う。
薫は後ろから着いてくる。時折くだらない話を振りながら。

途中、コンビニでアイスを忘れずに買って。





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