短編 | ナノ



04





 まだ完治したとは言いがたい身体を引きずって学校へ向かった。本当を言えばもう1日休みたい所だったけど尚が2日も続けて家に来てくれるとも思えないし、早くお礼が、会話が、したかった。

 ただそれだけで辛い体を動かす事ができた。



 教室に着きカバンを置くと尚のクラスへ足を運ぶ。

 尚・・・はまだ来ていないのか、探してもなかなか見つからない。


「穂高・・・くん?何、尚人?」

「あ、宮本さん・・・うん、尚、まだ来てない?」

 入り口でキョロキョロしているところへ後ろから声を掛けられ振り返ると宮本さんの姿が。この間のこともあって気まずさは隠せない。


「・・・・穂高君って尚人の何なの?」


「え?」


「ただの幼馴染って感じに見えないのよね。」

「・・・そんなこと、ないよ。普通のお隣さん、だよ?」


 宮本さんは少し大きめに、俺が気にくわないとばかりに、ため息をついた。


「迷惑、なのよね。こないだだって、いい所で穂高君が尚の家に来るし、屋上での事だってそうだよ。ちょっとは・・・考えてよ」

「ご、めん・・・・」



「いい加減、尚人を開放してよ。」



 束縛なんてしていない。むしろ俺達の間には“幼馴染”という親密な関係も、もう無いのに。

 また、ズキズキと痛み始めた頭。


「・・・そんなつもり無いんだけど。そう思われてたんなら仕方ない、ね。ほんと、ゴメン。」



 それだけなんとか言い切って、踵を返した。もう、教室に戻る気にもなれなかった。

 尚にも、尚の女にも、迷惑を掛けて、俺のこの気持はろくな事がない。どうしたら忘れられるの、どうしたら、なくせる?


 階段を駆け下りようとした所で登校してきた所だろうか、上がってくる尚と会った。


「っ、な、尚。」

「・・・・」


 話しかけるな、と言うような目線に、めげそうになった。だけど、一言だけ、一言だけで良いから・・・言わせて。

「昨日、来てくれたんだって?アリガト。」


「・・・別に、頼まれただけだし。・・・行く気なんて無かったけどな。お前に中学の頃借りてた漫画の続き、読んでないの思い出したから借りに行ったくらいだ。寝ててくれてよかったよ・・・」


「――――。」


 ・・・もう、いやだ。


 痛む胸なんてなくなってしまえば良い。



 くらくらとする頭で、尚の脇を通って階段を下りる。涙が、こぼれる前に校舎から外へと逃げたかった。



 せかす気持に、足がついていかなくって

 階段の中腹で足を滑らせた。

 
 足と腰に激しい痛みを感じたけど、そんな事もどうだっていい、少しでも早くこの場から、

「成っ!!」

 駆け寄ってくる尚の姿が見えたけど、尚の言葉がまた俺を刺すんじゃないかと体がビクリと震えた。

「さ、わんなっ!」

 慌てて、伸ばされた尚の腕を振り払った。

「って、お前大丈夫じゃねーだろ?」

「大丈夫。保健室、行くから。・・・触るな、俺に触るなッ!」


 もう嫌なんだ、傷つきたくない・・・


 引きずる足で、ガンガンと鳴り響く頭で必死に保健室に向かう。もう、涙なんて止めてられなくって、下を向いて、任せるまま涙を流した。


 保健室で、頭が痛い、足が痛い、とポロポロ泣いて、先生には男が痛いくらいで泣くな、とか言われつつも全然涙は止まらなかった。

 保健室のベッドで半日を過ごし、授業に出ず早退した。


 家に帰っても病み上がりだった事もあって母さんも優しかったんだけど・・・・俺が欲しいのは、尚からの優しさなんだ、とまたベッドで涙を流した。

 きっと俺の望む優しさなんて貰えない。

 なんで、こんな辛い恋してるんだろう。どうやって諦めたら良いんだろう。

 なんで、隣同士で、同じ歳で・・・

 なんで、俺は男、なんだろう。






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