短編 | ナノ



春 2





「言えない」

前と同じように、食堂の入り口を通り過ぎた大きな柱に隠れて問い詰めた。
本当に仲良くなったのは小学校からだけど、幼なじみって感じの俺達だから、言いたい事は言い合って兄弟みたいに過ごしてた。(俺は、だけど)
だから、問い詰める事は怖くない。
薫に嫌われるなんてありえないと思ってたから。今までは。

今の俺は凄く心臓がバクバク言ってる。
薫に対して、こんなに緊張した事なんて今までなかった。
もうすでに嫌われてるんなら、って気持ちと
もうこれ以上嫌われたくない、って気持ちがせめぎ合って。
拒絶の言葉を聞きたくなくて、構えるように薫の前に立つ。こんな俺は俺じゃない。でも、まだ修復できるのならと、俺は行動するしかないって思った。
俺が悪いなら直す、誤解されてたら誤解を解く。
それしかないだろう。このまま薫と目も合わさず、会話も交わさずじっとしてるなんてできなかった。

でも薫の返事は即答で。

「言えない、って事はそれなりの理由がそこにあるんだよな」

薫の目は正直だった。

「言えよ」

薫は足元をを見つめるように俺から視線を逸らして何も言わない。
言えないくらいの事、か。
それは口にしてしまうと俺が傷つくから、とかそんなことだろうか。
俺にどうしても直して欲しい事なら、俺に伝えて欲しいと思う。


視線の上がらない薫の胸倉を掴んで、俺は無理やり視線を向けさせた。

「ゆ、夕飛…っ」

少し、屈むようになった体勢に抵抗する。

「男だろ、言えよ。何でも聞いてやるよ。俺の事どれだけ嫌ってんのかとか、全部――っ!」

薫の胸倉を掴んでいた腕は、薫によって弾かれ空を切った。

弾かれた痛みが、後から伝わってくる。
ジンジンと、響く痛みはどんどん俺を蝕んで。

「ご、めんっ、」

頭が鉛のように重たくて、けど、俺は薫を見るために頭を上げる。
一度走り出したら、引くに引けない性格なんだよ、俺は。

「言えよ。薫がもう俺とは友達やれねぇって言うならそれでいいよ。けど、理由くらい…聞いてもいいだろ?悪い事じゃないだろ?俺、ちゃんと聞けるから」

今までの俺達の時間が、今崩れようとしてる。
俺はこんなにも薫に執着してたか?
少し前までは普通に友達やってたのに、誰がこうなるって思うよ。

なんとしてでも薫から引き出してやる。
殴り合いになったって、構わない。


俺の腕を掴んだ薫に対して、俺は瞬時に殴られる覚悟をして、殴り返す為にも拳に力を込めた。
腕を取った薫は、さすがに校内だとまずいと思ったのか、その足は俺を引きずるように中庭に繋がる扉へと向かっていった。






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