短編 | ナノ



春 1






「お前、もしかして俺の事避けてる?」

そんな言葉を吐いてみたら、薫は静かに俺を見返した。

「えっ…」

まさか、まさか。
そう思っていたことはまさかじゃなくて
俺はきょとんとした顔で薫を見つめた。




- S E A S O N -






薫とは家が近所で、幼稚園から雨の日も風の日も共に学校に通ってきた仲だ。
同じクラスになったことは今まで一度もなくて、この春、高校二年にして初めてだった。

始業式、貼り出されたクラス表を前に薫の背中を喜びのあまりバシバシ叩いた。
―――思えばあの時も薫は喜びの言葉なんてものは口にしなかった、な。

「……えーっと、俺の気のせいじゃなかったんだな」

「………」

「わりいな…その、気付かなくてよ」


居心地が悪くて思わず心にもないこと…上辺だけの言葉を連ねると、薫の眉間には薄くシワが寄った。
今まで、当たり前のように隣に居たけど、薫にとっては迷惑だったのだろうか。

同じクラスになって二週間。
俺から声を掛ければ普通に答える。
しかし視線は斜め下だったり、薫から声をかけられる事が少なくなっていくのが日に日に分かるくらいになって。
俺が何か薫と話をしたいと思ったときは探し出さなきゃいけなくなった、追いかけないと、薫は捕まらなかった。


耐え切れなくなって、今日は朝から薫の行動を見ていた。
ギリギリで逃げていく視線に、午前中だけで俺は苛立って、昼休みに入ってすぐに薫を追いかけると、食堂の手前で薫の腕を掴んで校内にある大きな柱の影へと引っ張っていった。


すぐ傍にある校舎の端から端まであるガラスのデザイン窓には、中庭にある桜の木から花びらが散っていくのが映り、壁に桜色の帯が引かれている様に見える。
薫の背中に伸びる桜色のラインが眩しかった。

捕まえたからには、訊かなくちゃならなかった。
覚悟を決めて、俺を、避けているのかと。


そして肯定された今、その意味を知りたい。

「いつから…?俺、何したかわかんねぇんだけど」

「――いつからとか、そんなの…。夕飛は気にし過ぎるから、気付かれないように…」

消えるような、薫の声。

薫は控えめな性格で、小学校入ってすぐの頃は上手く友達の輪の中に入れずにいたのを俺は知ってた。
周りが薫の事をノリが悪いって言うのを何度も誤解だって伝えてきた。
薫が根暗な奴ではなくて、ただの大人しくて、優しいから人の話は聞くばかり、相手が傷つくような言葉を口にしない為に無口なんだってわかってる。
兄弟のように、理解してここまで共に育ってきた。

俺が薫の事をよく知るように、薫だって俺の事を良く知っていた。
俺が気にし過ぎるから、と分かっててのその行動だと知って、結構…辛い。

「――そうかよ、…分かった」

身長だけはでかいくせに、気は優しすぎで。
俺を見下ろして生意気だって言ってた中学の頃を懐かしく思った。あれも桜散る春だった。小学校から上がりたての俺はチビで、この高校に上がる春休みでようやく平均にまで伸びてきたくらいだ。

「じゃぁな…」

見上げていた薫の表情を断ち切るように俺は踵を返した。
俺が去るのが分ってか、薫の姿はなんとも頼りなさそうだったけど、俺はそんなことに構ってられなかった。

あの薫に嫌われてただなんて。

俺の傍に薫が居ない事は、ずっと定位置にあった物が忽然となくなったような違和感があって。
考えもしなかったことだったし、勢いでその場を去ったものの…これからどうすんだ、って漠然と思うしかなかった。



***


今まですんげぇくだらない事も、薫にメールしてたんだって気付かされる。
もちろん薫以外のツレにだって送ってたけど、その件名に薫のアドレスが載らない事にまた違和感。
もうメールはしない、と決めてしまうのはものすごく重たい物を胃に落としたけど、でも薫があぁ言うのだから、俺は今まで通り接してられない。

避けるって事は、まだこっちを意識してるって事だから…そこに望みはあるだろう。
ずっと避けられ続けるなんて、考えたくなかった。

一体何が原因なのだろうか。

ちょっと機嫌悪かっただけじゃないか?一週間もすれば忘れて元に戻るかもしれない、一年経てばお互い成長して上手くやっていけるかもしれない。

これで終わりじゃない。
そう思い続けて自分を励まして、あえて、普通に過ごした。
関わる事があっても薫は学校では普通だし、俺も今まで通り。
でも目は合わない、一緒に笑ってても腹の内で上辺の笑いを感じてた。

俺は、薫とまた以前のように戻れるって信じてる。


そう頭で思って、何とか納得できるように自分で考えたけど、普段の生活で薫と関わる事も多かったから、短気な俺は耐えれるわけも無かった。
薫も知ってる俺の欠点。


「言ってくれよ」

やっぱり薫をを呼び出してた。






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