短編 | ナノ



07






「っ、徹治!」

半ば引きずられるように自宅へと戻ってきて、徹治は俺を引っ張り上げると一目散にベッドへと俺を放り投げた。

徹治の指がスーツを剥ぎ、シャツのボタンを外していく。徹治の視線は俺の肌を滑っていく。

「奏人…」
「や、やめろよ、徹治――っ」

徹治が俺の唇を塞いだ。
徹治は俺を抱くつもりだろうか。この間言ったことを実践しようとしているのだろうか。

「て、つじっ、そんなこと、もうっ…っあ」

そんなことしないでも、もう彼とは切れた。
これ以上徹治を傷つけたくもないし、自分も傷つきたくない。

下へと向かう徹治の指に、何度も抵抗を試みる。
怒りを含んでいるのか多少荒々しい徹治の動きに身がすくみそうになりながら。
これ以上嫌われたくないという思いと、もっと触れて欲しいという気持ち。

「…徹治」
「そんな声出すな」

徹治は俺の体をうつ伏せにすると、下半身を曝け出し、腰を高く持ち上げた。
さすがの俺も羞恥から暴れようとしたが、それよりも先に徹治の指が俺の孔を撫でていく

「あっ!」

ビクリと震える腰とジワリと熱を持つペニスが恥ずかしくて、今にも逃げ出したい。

何かを確かめるように撫でたかと思うと、何事も無かったようにズボンを履かせてくれた。

「徹治?」
「今日は抱かれてなかったのか」

ひどく安堵した徹治の表情。もしかしなくとも、徹治はそれを確かめたかっただけのようだ。

「この間のお前があまりにも酷かった。またあんな風に、抱かれてるんじゃないかって心配で…ったく」
「徹治、…徹治、なんで」

なんで、あの人から俺を連れ出したの。
それを聞いてしまっていいのかどうか。あのセリフがどれだけ嬉しかったか。

「徹治、もう俺のこと嫌ってんだと思った…」

もう、姿も見れないんだって思っていた。

「嫌うかよ…どうやってお前を助けるか考えてた。あの時俺が抱いて、それが証明になってあの男と別れても、意味が無かったんだよ」

徹治がベッドに座る俺の隣に腰を掛けた。
体は俺のほうに向けたまま。
そして、あの徹治の目だ。全てを見透かすような視線。

「ちゃんと、抱きたいから。何かの代わりとか、理由付けてとかじゃなくて、ちゃんと俺が奏人を抱きたかった。だからあの時じゃ駄目だった」

違うと叫んで去っていった徹治。
その意味は。


「好きだよ、奏人」


ベッドがしなる音が鳴り、徹治が寄って来る。
夢のような現実に。自分だけが付いて行けてないようだった。
触れ合う徹治の唇はこの間とは違い、温かかった。

「…んっ」

鼻を鳴らす俺に、啄ばむようなキスを降らせてくれる。

「徹治…徹治っ!」

徹治が一度身を引くと。自分ひとりが熱くなっているようだったが、徹治の見えた表情に、安堵した。

徹治が自分に欲情してくれているのはひと目見て分かったから。

「徹治、なんでッ――!」

「ずっと親友とは少し違う感情だと思ってたけど、お前が実家から離れて、ここで一人暮らしし始めた頃に、好きだって気付いた。気持ちを伝えようって思えたんだ。それまでは伝えるつもり、無かった」
「だって、お前…純ちゃんが」
「婚約祝いの飲み会があった次の日、私達も、って言われて、振ったんだ。俺…気持ちごまかしてまで結婚できる気しねぇし」

俺がカムアウトしたとき、あんな表情をしていたのに。きっと俺が傍に居る事で徹治の感覚を狂わせたに違いない。

「徹治、お前は普通にやっていけるだろ、俺に感化されてるだけの――」
「奏人が俺に性癖ばらした時、正直どう接したらいいのかって思ったよ。けど、お前は何も変わらなかった。俺がそんなお前に惚れただけだ。友人だと思ってたけど、お前が離れて、本物だって気付いた。自分がお前を親友という名目を使って傍に置いておきたかっただけだって」

一息に言葉を繋いだ徹治の息が上がっていた。

「お前が、俺のこと友達としか思えなくても、でも、夜の相手が誰でもいいって言うんなら、俺にしとけ。絶対あんな酷い目にはあわせない、お前を振り向かせようなんて思ってない。ただ・・・ほっとけないんだ」


「馬鹿みてぇ、俺っ。なんだったんだよ」

徹治の首に腕を絡めた。
自分の気持ちをなくそうと必死にならなくても、こんなに近くに徹治が居た。

徹治の唇に自分のを重ねると、徹治がしっかりと俺を支えてくれた。
徹治の唇が俺の涙を拾ってくれる。

助けてくれる腕はここにあったのに。
寂しがることなんて何一つ無かった。
徹治は今までと変わらず俺の傍に居るんだ。


「好き、徹治…俺もずっと好きだった」



長い長い、遠回りでやっと俺の片思いが終わりを告げた。





END



とうふ屋」Pioul様





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10.02.20 nico



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