短編 | ナノ
04
「っ――!」
空を切った腕は、そのままシーツに沈み、指が白くなるほどシーツを握り締めた。
その指を、まるで自分の物では無いように視界に止める。
「勘弁、してくださ…っ」
そのセリフで、また彼の楔が深く沈まってくる。どこまでも深く掘り下がってきそうなくらいの上からの打ちつけ。
自分の体がどういう体勢なのか全く分からない。
「勘弁?何を。ちゃんと求めるまでやめないよ。可哀想に、赤く膨らんできているね。私はとても気持ち良いけど」
そう言って彼を咥え込んでいる口をくるりとなぞられる。ヒクリと震えた尻をすかさずつかまれた。
骨を掴むように抱えられると、彼の動きが緩やかな物から力強い物に変わる。
これで何度目だろうか…。
「く、ぅっ!あ、あああっ」
千切れてしまいそうだった。体の部品全てが。内臓を引きずり出され、細胞にまで砕けてしまいそうな攻めたて。
「た、す…」
「分かるだろ」
耳鳴りがする。このまま意識を飛ばしてしまえればいいのに、上手くいかないもので。
興奮しているのか、自分が感じているのかどうかも判らない。けれど苦しみからは解放されたい。
「ほ、解いてッ!あああっおかし、く…」
彼がペニスに触れると、痛いほどの刺激が体を走りぬけた。根元できつく絞められた細い紐で気持ち悪いくらいに膨れ上がっている。
早く解いて欲しい。早く、早く。
「あ…なたの、か、感じながらっ、達かせてぇ」
情けなくもグズグズに泣いていた。
泣きながら言いたくもないセリフを言わされながら。
惨めで惨めで、けれど熱には叶わない。欲を留める事にも限界だった。
彼の動きが少し遅くなる。
引き抜き、少し止まっては奥深く嵌めこまれる。そんな間隔を空けながら、彼が俺の物に手を掛けた。
「あ、…んんぁ、あっ、…あっ」
彼のリズムにあわせるように漏れる声を止める事もしなかった。頭の中は開放することしか考えられない。
もう少し下、根元にある紐を、一思いに解いて、欲しい。
彼の手を紐に導くように緩く腰を揺らすと、クスリと彼が笑う。
何故こんな目にあっているのだろう。
何がきっかけで――
俺が、
「あぁぁっ!!!、なっ!」
びゅく、と白濁が漏れる。
紐を解かれながら、けれど全ては開放してもらえなかった。再度指で根元を押さえられる。
「はぁぁっ、あ!」
また少し、白濁が漏れ出す。
彼のリズムに合わせて、指を緩めたり絞められたり。
遊ばれているのだと分かっても、どうする事も出来ない。言葉すら出せない。
揺るむ瞬間を待ち望むだけだ。
「は、やく…、おねっ」
頭が痛み、目が霞む。
「ん、ああぁぁ―――っ!」
激しくなった彼の動きを受け止めながら、少しだけ緩められた彼の指。
細い所を勢いよく飛び出す快感に、全身をひくつかせた。そんな俺を抱えながら、射精の止まらない俺を楽しむ彼の攻めに最後は声にならず、そのまま意識を飛ばした。
これは罰なんだろう。
何度相手を変えても、いつも本気になれない俺への。
俺が中途半端に生きてきたから――。
数度、相手の男性を悲しませた事もある。
遊びと割り切れないくせに、本気にもなれない。
俺、どうすりゃいいのかな…
◇
「あら、春武さん最近良く給湯室で会いますね」
総務の女子は、俺の手元を覗いて眉間にシワを作った。
「…大丈夫ですか?このところ胃薬ばかり飲んでますね」
「うん、ちょっと接待が続いてるだけで」
「栄養と睡眠はしっかり取って下さいよ。眼の下、クマが出来てますよ」
明るい女性の声に癒されるようだった。
けれど、すぐに浮かぶのが自分の立場だ。
上司の入籍はまだ半年も先だと言うが、この関係がつづくと相手の女性を傷つけるだけだ。なんとか関係を切ろうと思うのに、それに感付く上司には酷く攻め立てられるのだ、体で。
気を緩めると意識を飛ばしそうだった。
今すぐ眠ってしまいたいくらいに精神的にも疲労していた。かといってぐっすり眠れるわけでもない。
けれど、これが俺の受けるべき罰だ。
彼が俺に飽きるのを待つしかない。
ポケットに入っている携帯が静かに震えるのを感じて体を振るわせた。緊張で手が震える。
彼だ、最近では携帯は彼からの連絡しか入ってこない。
徹治はあれ以来訪問どころかメールさえ届かなくなった。
どうせ、彼からの呼び出しなのだろう。
『今日から一週間出張だ。ちゃんと帰ってくるまで溜めておくんだよ』
呼び出しでなかった事だけに安堵して、そっと携帯をしまった。一週間後の事を考えると気持ちが重く沈んで何もする気になどなれないけれど、一週間、たった一週間だがこの間だけは彼の呼び出しに怯えなくて済むと思うと助かる。
昨日受けた体の痛みは、まだ当分癒せそうも無かったし、今日はゆっくり家で睡眠を取ろう。
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