短編 | ナノ



19






「せ、・・・っ」


 ぎゅうぎゅうに先輩の腕に力が入る。

 優しくとか、そんなんじゃない、痛いくらいに。

 ちぎられるんちゃうかってくらいきつく、後ろから抱きしめられてた。


 痛む胸に、先輩の温もりに、そんでわけ分からん現状に、帰りの新幹線でこっそり流すはずやった涙はぽたぽたと地面に吸い込まれていく。


「律」

「先輩、電車・・・無くなってまう」


 先輩とギリギリまで一緒に居たくて、取ったチケットは最終のんやった。いっそのこと鈍行で帰ってやろうかと思ったくらいの、早すぎる新幹線の最終。



「電車はもう、ええ」


 なに、ゆうてんの、この人。

 どこまで俺の気持ち揺さぶっていくねん。


「蒼人先輩、キツイわ・・・」

 
 ぽたぽた、落ちていく雫に、先輩もとっくに気付いてるはず。それでもそんな事言って、俺にどうせえって言うん。

 しばしの沈黙のあと、先輩の腕が弛んだ。


 目の前で、閉まる新幹線の扉をぼーっと見てた。


「律、ゆうてくれへんの?」

 耳元で響く先輩の声。

「・・・何を?」

 震える声で、搾り出した。



「俺のこと好きやって、ゆうてくれへんのか、今日は」


「――っ、」


 意味、わからん



 先輩の腕はとっくに弛んでたけど、俺も先輩も動かんかった。先輩の体温をこんな風に感じることが出来るなんて、思いもせんかった。


「夏、返事できんくてゴメンな。・・・・あの時、断る事も出来たかもしらん。でも、出来んかった」

「・・・なんで、謝んの」

「今思えば甘えてたんや、お前に。自分の気持ちごまかして、律に甘えとった」


 ごまかして?


「あの夏、断ったら終わりのような気がして・・・男なんて考えもせんかったのに、あの時お前を振ること出来んかった」


 無かったことになってたんやと思ってたあの夏祭りの告白。先輩に響いてないと思ったあの言葉。
 

「東京、目的あって来たのは確かやけど、頭のどっかで俺が離れたらお前がどうなんのかって、思ってた。好きで、おってくれんのかって・・・・」

 また、強まった腕の締め付け。


「俺の方が、あかんかったみたい」

「ど、ゆうこと・・・・?」



「自分の気持ちが何か分からんくって、信じるの怖かってん・・・。でも、お前の事、全然忘れられんかった」



 先輩・・・



「今まで、ごめんな・・・・」


 先輩・・・っ


「お前が・・・今日、告白してくれんの待ってたんや。それやのに、普通に帰ろうとするから、」


 普通になんて―・・・


「・・・って、ちゃうか。頑張ってくれてたんやんな?その涙、そうゆうことやろ?」


「蒼、と・・・せんぱっ」


「ごめん、ほんま・・・・。俺の事、好きでおってくれるやんな?ここに来て俺の片思いとか、ちゃうよな?」




 叶わん、恋やってわかってたのに

 どうすることも出来んくて

 しゃーないんやって言い聞かせて


 これで最後やって


 諦めんとあかんって、何度も何度も・・・



「あんま泣くなや、」

「先輩・・・っ」

 報われる日なんて、夢見てなかった。



 でも頑張れば自分に返ってくるって、教えてくれたんは先輩やった。






「とりあえず、俺ん家帰るか」




 大好きや、先輩。







END


一途で、頑張り屋さんのあなたに捧げます。
08.07.05


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