短編 | ナノ
18
楽しい時間は、ほんまに早く過ぎていく。新幹線乗って来たん、ついさっきやのに。先輩に会ったの、さっきやねんで?
「何時の新幹線?」
あぁ、終わってまう
「9時過ぎの・・・」
「そうか・・・ほんならもう向かわなあかんか」
先輩との時間が、終わってまう。
どのタイミングで最後の告白をしようかって、そればかり考えて、でも最後って思うたびに俺の胸がざわつく。
何度も、やめとけって・・・ゆうねん。
このまま黙って去ってしまえば、先輩との関係は今のままや。また今度東京タワー見る約束もした。“次”を先輩が与えてくれたんや。
それを俺は告白して蹴ってまう・・・・
その勇気がなかなか湧かんくて。
何度も最後にせなあかんって言う自分と、今の楽しい思い出を最後にしてしまう事が出来へん自分がおって。
先輩と切れることが・・・・怖くて、悲しくて、
「律、次降りるで。何考え事してんねん」
笑いながら、肩に手を置いてくれた先輩と、駅に滑り込んだ電車、ここで先輩と別れなあかんねやと思うと・・・決断が揺らぎそうや。
ほんま、ギリギリまで
言うか言わんか、悩んでた。
先輩の姿を、またしばらく見られへんのやと思うと新幹線に乗り込むことも躊躇ってしまいそうや・・・。
「あと20分か。土産、買い忘れたもんないか?」
「・・・・うん」
「またこっち来る時言えよ?夜の東京タワーもやけど横浜もおもろいから・・・」
また、そんな事ゆう。
こんだけ普通に接してくれてるって事はやっぱり俺の想いは届いてなかったんやろうな。
先輩からしたらここで告白されてもまたか、で済んで。ほんで、また友達として接してくれようとするかもしれん。
でも、そうなったらもう俺は先輩のこと、諦めようと連絡せんくなるんやろな。そんで、先輩は俺のこと忘れて・・・
俺も先輩の事・・・忘れて、
俺の乗る新幹線の到着を知らせるアナウンスが流れると共に、胸がドクドクと痛み始める。
「律、また連絡するから」
あかん、もう、告白・・・できへんよ
先輩のこと、今日で終わりになんか、できへんよ
まだ、好きやし
もっと好きになった
新幹線を目の前に、大きく息を吸うと、胸が軋みながら開いて酸素を入れる痛み。
「先輩、ありがとう」
それしか、言えんよ。
無理やり笑って、先輩見て、それから背中を向けて新幹線に足をかけた。
「律」
先輩の腕が、俺を包んでて。ほんで、自分から落ちていく雫が見えた。
prev|back|next
[≪
novel]