短編 | ナノ



17






 流れる景色は都会やったかと思えば山の中になって、めまぐるしく変わる事約2時間半。なんだかんだで3時間近く掛かっているけど。

 早い。時間にすると早い。一日で行って帰って来ることが出来る。けど、実際の距離ってのは本当に遠い事も知ってる。



「ないわー。東京駅の乗り換えに掛かる時間。ありえんわ。何であんなに入り組んでんの」

「慣れれば大した事ないで、俺も最初は参ったけど今は大体把握できてる・・・・ってか、だから新幹線のトコで待っとけってゆうてたんや」


 先輩は標準語になってなかった。いや、俺の前やからかな、学校では周りに合わせて標準語しゃべってんのかもしらん・・・。

 俺の前におる先輩だけ、信じたらええ。俺の知らんところで過ごしてる先輩を気にかけて、想像するだけで身を削られるようや。そんでもほんまの所は分からんねんから、目の前におる先輩だけが全てやって思うようにした。

「蒼人先輩、どこ連れてってくれんの?」

「あー・・・そやな、とりあえず約束の飯やな?晩には帰るんやろ?時間有効に使わなな」

 そう言って、駅から近いところで食事をした。先輩が受かったら飯奢ってくれるって言う、約束の。そんで先輩の友達の変な話とか、普通に、ほんま普通に話して・・・今まで先輩後輩、それこそ弟って感じでの会話しかなかったのに、今日のこの時間は友達らしい会話ばかり。

 高校でもそれなりに会話してたけど、外に出て学校の事じゃない、勉強の事じゃない話ができる事が夢のようやった。




「夜の東京タワーは綺麗やで」

「あたり一面キラキラ光る海って感じなん?」

「いや、東京タワーが綺麗なんや。見たことある感じやけどな写真とかで。でも生はやっぱええで。今日は晩時間ないから、また今度宿とって来た時に連れてきたるわ」


 昼の東京タワーの中で、先輩が何気なく吐いた言葉に嬉しさと、ほんで、ちょっとの寂しさがあった。

 今度、を何気なく約束してくれた事、めっちゃ嬉しかった。先輩が、俺との次を一瞬でも考えてくれた事が。


 ―・・・でも、先輩。俺はきっと先輩に会いには東京こーへん、よ。

 振られる確立は高い事は間違いない。先輩からもらえんかった夏の返事。それが物語ってる。

 ただの自己満足でしかない、この今日の東京。明日の今頃には、俺はスッキリした気持ちで笑ってられたらええな・・・。


「律?」

「あ、あぁ先輩、次いこ!」


 こうやって、二人で歩ける日が来るなんて。いつも願って、思い描いて・・・・そして今現実の物なんや。こんな楽しい時間、一生の思い出や。

 何度も、口から出したくなる好きって言葉。でも出したらその時点で終わりなんかと思うと胸のうちでささやくだけしか出来ん。


 もう、何回ゆうたやろ・・・


 俺は胸のうちだけで今日何回告白したんやろ・・・。







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