短編 | ナノ
15
先輩の事は、日下部からたまに聞けた。
彼女はおらんらしいって日下部はゆうてたけど、ほんまの所は誰も分からん。大型連休でこっちに帰ってきてるとかも教えてもらってたけど、俺は講習とか入れて忙しかった。
忘れようとは思わんかった。
忘れられたら、とは思った。
俺は3年になってから何度か告白もされたけど、どの女の子とも付き合う気にはなれんかった。嘘でも付き合って、そんで先輩の事一瞬でも忘れる事が出来たんかも・・・って考えたけど、結局勉強の度にノート開けば、先輩に認めてもらいたくて頑張ってる自分がおったから、忘れる事はできへんのやって思ってた。
勉強ばっかしやった。
そこまでせんでも入れるよ、って日下部にも言われたけど、勉強してないらん事ばかり考えてまうから。
大学、受かったら先輩にメールする。そう思ってた。
やのに、簡単にあの人は俺の中に舞い戻ってくるねん。
高校生活、最後の冬と共に。
『元気でやってんの?』
そんな一言のメールと共に。
さて帰ろかって時に響いたケータイにてっきり日下部やと思い込んで開いたもんやから、もう色々なんか出てきそうになった。口から心臓とか、喉から手とか(違う)目が飛び出すかと思った、目からウロコ(これも違う)。
目から、涙、とか。
『元気です。先輩は?
俺、大学受験頑張ります
終わったら…会ってくれませんか』
最後の一文は、送れんかったけど。ちょっとぴりぴりしてるこの時期、先輩の柔らかい笑顔・・・見たいなって思った。
下駄箱んとこでまたケータイが震えた。今度はちょっと期待しながら、開いた。
『受かったら、飯おごったるわ』
そんな返事に先輩の笑顔が浮かんだ。俺と同じ制服着た、散ってく桜をバックに笑う先輩の顔。ぎゅっと携帯握り締めて、マフラー抑えながら校舎から外に出る扉を開いた。冷たい風が吹き込んできても・・・寒なかった。
頑張れる、出来る。
絶対受かる。
そんで、もっかい…言うねん先輩に。そんで答えもちゃんと貰う。
それを、最後にするから、蒼人先輩…。
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