短編 | ナノ



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 先輩の事は、日下部からたまに聞けた。

 彼女はおらんらしいって日下部はゆうてたけど、ほんまの所は誰も分からん。大型連休でこっちに帰ってきてるとかも教えてもらってたけど、俺は講習とか入れて忙しかった。


 忘れようとは思わんかった。

 忘れられたら、とは思った。

 俺は3年になってから何度か告白もされたけど、どの女の子とも付き合う気にはなれんかった。嘘でも付き合って、そんで先輩の事一瞬でも忘れる事が出来たんかも・・・って考えたけど、結局勉強の度にノート開けば、先輩に認めてもらいたくて頑張ってる自分がおったから、忘れる事はできへんのやって思ってた。


 勉強ばっかしやった。

 そこまでせんでも入れるよ、って日下部にも言われたけど、勉強してないらん事ばかり考えてまうから。

 大学、受かったら先輩にメールする。そう思ってた。



 やのに、簡単にあの人は俺の中に舞い戻ってくるねん。


 高校生活、最後の冬と共に。



『元気でやってんの?』


 そんな一言のメールと共に。

 さて帰ろかって時に響いたケータイにてっきり日下部やと思い込んで開いたもんやから、もう色々なんか出てきそうになった。口から心臓とか、喉から手とか(違う)目が飛び出すかと思った、目からウロコ(これも違う)。


 目から、涙、とか。



『元気です。先輩は?

 俺、大学受験頑張ります


 終わったら…会ってくれませんか』


 最後の一文は、送れんかったけど。ちょっとぴりぴりしてるこの時期、先輩の柔らかい笑顔・・・見たいなって思った。


 下駄箱んとこでまたケータイが震えた。今度はちょっと期待しながら、開いた。


『受かったら、飯おごったるわ』


 そんな返事に先輩の笑顔が浮かんだ。俺と同じ制服着た、散ってく桜をバックに笑う先輩の顔。ぎゅっと携帯握り締めて、マフラー抑えながら校舎から外に出る扉を開いた。冷たい風が吹き込んできても・・・寒なかった。



 頑張れる、出来る。

 絶対受かる。

 そんで、もっかい…言うねん先輩に。そんで答えもちゃんと貰う。



 それを、最後にするから、蒼人先輩…。






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