短編 | ナノ
13
「なんで、そんな」
何でそんな遠いとこ
なんで、離れて行くん、
「兄貴から・・・聞いてん。兄貴も伊藤さんからは詳しくは聞いてないみたいでな。相談とかそんなんなかったみたいやねん。久々に会ったら東京の大学行くって言い出したらしくって」
「・・・・俺、まだ追いついてない」
「七井」
「く、さかべ・・・俺、まだやねん。まだ先輩の弟でしかないねん。やから、そやから・・・っ」
頑張って、それ、見てて欲しくって
「・・・追いついても無いのに、先輩、離れて行くん?」
なんで、なんて聞かれへん。先輩が決めたこと。やから、日下部、
「日下部、何でなん・・・・なんで、」
離れたって大丈夫、とかない。
離れたら忘れられる存在やもん、強い繋がりが俺と先輩の間にはないねん。過去の人間になるしかないん?思い出話にしかならんの、俺。
必死で追っかけてんのに、先輩はどんどん先へ行く。
「な、あ、日下部」
「・・・七井」
うなだれた俺の頭を日下部が抱えてくれた。ただ撫でるだけのその手が優しくて。
涙が、床に落ちてった。
先輩を思って、どんだけ辛くても、何回振られても泣くつもりなんて無かったのに。
「七井、七井」
日下部が優しいから、余計泣けるねん。あほ。
「七井・・・」
「うん。ごめん日下部」
日下部やって、こんな風に泣かれたら困るに決まってる。かける言葉なんて出てこんもんやんか。
「ありがと、日下部。・・・・俺どうして良いか分からん、・・・・来年一年は勉強のことだけ考える事にするわ」
先輩のこと忘れる、なんて口約束できへん。自信ないもん。大学決まってそれでも好きやったら、また考えるわ。
先輩に言われて、頑張ろうって思えてん。後悔せぇへんように、まだ前見て頑張るしかない。
3年になって進路別でのクラス分けで日下部とはまた同じクラスになれた。
そんで、先輩は東京の大学生になって、一人暮らしが始まったらしい。
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