短編 | ナノ



12






 俺が弟としてしか見られてへんくても、メールでしか会話できんくても。それでも、たまには会えるかもっていうわずかな可能性があって、それを期待して。頼みの綱は日下部兄弟やった。
 

 でも、そこから流れてきた現実に、俺はどうする事も出来んかった。





 
 先輩と過ごした夏祭りの1日。嬉しいような、苦いような1日、俺の記憶の中で一番新しい先輩の姿を何度も思い返しては月日が経っていって、気付けは季節は秋になってた。

 先輩とは以前と変わらずたまにメールを交わす程度の仲で・・・それでも、あの時の俺の告白に触れることはお互いなかった。

 先輩が俺のことを避けたりせんだけで、また十分やった。先輩から諦めてくれとか、忘れてくれとか言われたら俺は今頃どうしてたやろか。



 そして二年の俺たちに突きつけられたのは進路の話。


 去年の俺やったら、目的も無くてちょっと勉強せなあかんかな、としか思わんかったんちゃうかな?そう考えたら先輩の存在って、ほんまに大きいねん。


 進路の話が多くなってきた担任の話を流すように聞きながら、空を眺めてた。

 その時、胸のポケットで震えた携帯。そっと取り出しメールを開いたら差出人は日下部やった。日下部とは二年になってクラスは離れてもうたけど、新しい友達が増えても相変わらずの一番の親友やった。

『今日一緒に帰ろう』

 いつも約束している訳やないけど、お互い声を掛けて帰ってた。やから、わざわざこんなふうに帰宅の誘いをメールでしてくる時点で何かがあったってことなんや。

 それに気付いたのは結局少し遅れて終わった日下部に会ってからやったけど。
 




「なんなん、珍しくメールで帰る約束とかキモイ」

 皆帰ってもうた教室で日下部を待ってた俺は日下部が来て開口一番それ。

 やのに、日下部の表情は浮かない物やった。


「なあ、七井。お前進路決めたか?」

「なんや、進路の相談か?俺のほうがちょっと頭良いからって焦ってんのか日下部。安心せぇやこないだ行こかゆうてた大学やろ?それに向けて一緒に勉強するて―・・・」

「・・・東京やって」

「は?」



「伊藤さん、東京の大学受けるんやって」






 先輩を追いかけて、同じ大学に入るとか・・・考えた事なかったし、そんな事するつもりもなかった。きっと先輩はそんな事嬉しいとは思ってくれへんやろうし、俺も先輩と対等になるには、そういう意味で背中を追いかける事は違うと思ったから。

 俺は夢を持って、自分の道を歩む。それを先輩に見てて欲しかった。そんで、先輩に認められたらまたちゃんと・・・告白して、返事貰う。


 そんな事を、俺は狭い視界で夢見てたんかもしれん。


 先輩が浪人中に進路変更する事とか、考えもしてなかった。先輩とは勉強のメールはしても、どこの大学がどうとか、そんな内容にはならんかった。きっとお互いあえて避けてたんかもしらん。

 頭のどっかで先輩とはこれ以上今の距離から広がる事は無いって・・・・思い込んでたんや。


 メールだけでしか繋がって無くても、近くに先輩がおったらいつかは会える。日下部を通じてとか、道端で偶然とか。同じ気候を同じ土地で肌に感じてるんや・・・って。それが当たり前なんやって。

 俺が大学生になれば少しは距離も縮まるかもしれんって思ってた。今より離れる事はなくてあるとしたら縮まる事。そんで、振られたときは俺が忘れる事が出来るまで会わんとこうって・・・

 そんな事しか考えてなかったのに。

 まさかの東京。





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