短編 | ナノ
09
先輩に、少しでも近づけるように
先輩に少しでも認めてもらえればええから。
自分に返ってくるって、先輩ゆうたやん。だから俺、ちゃんと自信つけて、そんで…。
◇
「七井!・・・・七井って」
「なんやねん、俺忙しいねんて」
俺は高校二年になって先輩のおらん学園生活を過ごしている。もう、慣れたけどやっぱり校舎を歩いていてばったり出会って挨拶を交わすとか、目が合ったときに愛想でも笑ってくれてたそれがないと思うと楽しみは半減やったけど。
でも、俺は決めたから。先輩に認めてもらえる人間になるって。弟とか言われて年齢とかもあって、それはそれで仕方ないって思ってたけど先輩が最後に言ってくれた言葉が俺の生活を変えた。
あれだけ赤点まみれやった俺の頭を何とかする。ちゃんと成績残して、ちゃんと大学目指して、やりたいこと見つけて・・・そんで、先輩にそんな俺を見て欲しいって思ったから。
たまにメールを交わしても、お互い勉強の話やったりして、去年の俺からは考えられへんくって、先輩も俺の成績が上がってきてる事を聞いて驚いてたけど、喜んでくれて、もっと頑張れって・・・言ってくれた。
「ちょ、七井!そんなに急いでどこ行くねん」
じりじりとアスファルトで目玉焼きが出来そうな、異常に熱いここ最近の夏。
「公民館」
「こ、公民館て!なんでんなとこ・・・」
日下部の声が公民館の「こ」で裏返る。
「勉強しに行くに決まってるやん。家おったらオカンうるさいねんて、クーラーで電気代がどうこうって」
「やからって公民館はないやろー。図書館とか言えや」
「図書館は遠い。それに公民館は小さいからか、かなりクーラー効いてんねんで。お前もどうせ俺んちで涼もうとか思ってたんやろうけど残念やったな。じゃぁな、」
俺も日下部も短期バイトをこの夏休みに入れていたけど、日下部ときたらバイトの帰り道にわざわざ俺んちの前を通って、そんで俺のチャリがあること確認して家に上がり込んでくる。
ほんま、タチ悪いで。ただ涼んで、ジュースでも頂こか、ってなもんやもん。
そんな日下部とばったり家の前で会ったわけ。
「・・・・何でついてくんねん、はよ帰って自宅で涼んだらえぇやん」
「ちゃうて、七井にニュースがあって今日は寄ったんやって」
「はよゆえや」
自転車でガーッと公民館向かいたいねん。こんなちんたらあるいとったら体の水分いくらあっても足りんて。
イラッときてる俺の後ろをたらたら付いてきながら、日下部は「どうしょっかな〜」とか「いわんとこかな〜」とか、無駄にもったいぶりやがる。
いい加減に暑さにやられそうやったから日下部ほってこ、と思ってチャリにまたがった。
「お、待て待て!ごめんて、あれや、あれ、あの花火大会あるやんか、あれ行かん?ってか行こうや」
「はぁ?どの花火大会」
やっと本題を口にした日下部は俺がチャリで逃げてくと思ったんか、しっかりとポロシャツの裾を捉えてた。
くそ、黒いポロシャツにするんじゃなかった、暑すぎるわ。塩噴く勢いや。
「河川敷の・・・」
「だるっ!パスパス。なんでわざわざ電車乗って人ごみ行かなあかんねん・・・あれ帰りも大変やねんで?周辺でマンションに住んでるツレがおって、そいつんちで見せてもらえるとかやったら話は別やけど・・・」
「伊藤先輩も来るで」
「行く」
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