短編 | ナノ
08
先輩とは、以前と変わらん関係に戻った。
あの文化祭の日が俺の夢やったんかな、って思うくらい何も無かったかのように。
きっと先輩の中で俺は変わらず“可愛い弟”なんやろな。可愛いって付いてるだけでも、十分か。
どうやったら、弟から友達に上がれるんかな・・・。
◇
「七井」
「・・・・おれのせいやったりするんかな」
「なにゆうてんねん」
日下部は最近俺を慰めてばかりやな、って思うわ。そんな役回りごめんやろうけど、俺の親友やってる限りは付きまとうかもしれん。
「や、少なくとも俺が気を散してもうたんちゃうかな?」
俺がいらんこと言うたから。
「そんなんで気が散ったとかゆうてたら人生やってかれへんて。それに、以前の関係に戻ってたんやろ?」
「うん・・・・俺が思うにな。でも蒼人先輩のほんまの心内なんてわからん、やんか・・・」
蒼人先輩、大学あかんかったらしい
日下部の兄貴経由で聞いた速報に、俺は冷や汗をかいた。
俺が秋に告白して、それが少しでも影響したんちゃうかって・・・。勉強の妨げになったんちゃうかって。
どんな顔して先輩に会えばええの。
ってか、一年の俺が先輩を励ます事なんてできへんやん。高校入ったばかりのお前に何がわかるねんって、思われて終わりやんか。
そう思うと、声も掛けられへん俺の存在って
・・・ほんまに要らんやん。
おまけに、俺っていつも赤点ばかりやし、今日もこうやって担任に職員室に呼ばれて・・・
「って、蒼人せんぱ・・・っ」
振り向いた先輩と目が合ってから、失敗したって思った。勢いで声かけてどうすんねん、何話すねん。
「よう、律。元気してっか?」
「う、うん・・・」
3年生はは殆ど学校に来てないような時期。
先輩にも会われへんやろうって思ってたし、見かけても声もかけんとこうって思ってた。
「ん?あー・・・もしかして聞いたんか。日下部兄弟つながりで」
俺の気まずそうな表情を読み取ったんか、先輩の方から言ってくれた。大学あかんかったこと。
「だからって、なんで律が落ち込んでんねん」
先輩こそ、なんで俺を前にして笑えてんねん。落ちたんやで、大学。大変な思いして勉強したんやろ?
「・・・・俺な、どっかで自分は大丈夫って自負してたんやろな。その結果がこれやわ」
「俺が・・・」
「律、がんばれよ。お前は。高校生活無駄にすんな。遊びも勉強も。やれば絶対自分に返ってくんねん。絶対や」
先輩は俺のせいやとは言わんかったし、自分の力のなさを痛感しているみたいやった。でも、落ち込んでもなかった。
根っからのプラス思考に、また惚れた。
「律、俺これから浪人で勉強がんばらなあかんけど、たまには息抜きであそばせぇよ」
先輩と直接学校で会話を交わしたのはそれが最後やった。卒業式、俺はそっと先輩の姿を見るだけにとどめた。
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