短編 | ナノ



08






 先輩とは、以前と変わらん関係に戻った。

 あの文化祭の日が俺の夢やったんかな、って思うくらい何も無かったかのように。


 きっと先輩の中で俺は変わらず“可愛い弟”なんやろな。可愛いって付いてるだけでも、十分か。



 どうやったら、弟から友達に上がれるんかな・・・。











「七井」

「・・・・おれのせいやったりするんかな」

「なにゆうてんねん」

 日下部は最近俺を慰めてばかりやな、って思うわ。そんな役回りごめんやろうけど、俺の親友やってる限りは付きまとうかもしれん。


「や、少なくとも俺が気を散してもうたんちゃうかな?」

 俺がいらんこと言うたから。

「そんなんで気が散ったとかゆうてたら人生やってかれへんて。それに、以前の関係に戻ってたんやろ?」

「うん・・・・俺が思うにな。でも蒼人先輩のほんまの心内なんてわからん、やんか・・・」



 
 蒼人先輩、大学あかんかったらしい





 日下部の兄貴経由で聞いた速報に、俺は冷や汗をかいた。

 俺が秋に告白して、それが少しでも影響したんちゃうかって・・・。勉強の妨げになったんちゃうかって。

 どんな顔して先輩に会えばええの。

 ってか、一年の俺が先輩を励ます事なんてできへんやん。高校入ったばかりのお前に何がわかるねんって、思われて終わりやんか。

 そう思うと、声も掛けられへん俺の存在って

 ・・・ほんまに要らんやん。





 おまけに、俺っていつも赤点ばかりやし、今日もこうやって担任に職員室に呼ばれて・・・

「って、蒼人せんぱ・・・っ」

 振り向いた先輩と目が合ってから、失敗したって思った。勢いで声かけてどうすんねん、何話すねん。

「よう、律。元気してっか?」

「う、うん・・・」

 3年生はは殆ど学校に来てないような時期。
 先輩にも会われへんやろうって思ってたし、見かけても声もかけんとこうって思ってた。

「ん?あー・・・もしかして聞いたんか。日下部兄弟つながりで」

 俺の気まずそうな表情を読み取ったんか、先輩の方から言ってくれた。大学あかんかったこと。

「だからって、なんで律が落ち込んでんねん」

 先輩こそ、なんで俺を前にして笑えてんねん。落ちたんやで、大学。大変な思いして勉強したんやろ?

「・・・・俺な、どっかで自分は大丈夫って自負してたんやろな。その結果がこれやわ」



「俺が・・・」

「律、がんばれよ。お前は。高校生活無駄にすんな。遊びも勉強も。やれば絶対自分に返ってくんねん。絶対や」

 先輩は俺のせいやとは言わんかったし、自分の力のなさを痛感しているみたいやった。でも、落ち込んでもなかった。

 根っからのプラス思考に、また惚れた。


「律、俺これから浪人で勉強がんばらなあかんけど、たまには息抜きであそばせぇよ」

 先輩と直接学校で会話を交わしたのはそれが最後やった。卒業式、俺はそっと先輩の姿を見るだけにとどめた。






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