短編 | ナノ



06






「おい七井。どこいっとってん!仕事ほったらかして」

 色々やってる廊下を一人で歩いてたら、後ろからそんな声掛けられて、肩をつかまれた。


 あぁ、日下部の声。



「おー、ごめん。や、なんつうか暇やってん、マジ。注文はいらんし、入っても女子が率先してやってくれて、な」

「・・・・七井」


「日下部はすることないん?んなら一緒に・・・」


「七井、」


「・・・うん」




 日下部に隠すつもりも無いけど、ちょっとがんばらなあかんって思ってん。

 でも、無理。一人じゃ無理やわ。


「・・・日下部、ちょっと、な・・・、話・・・」

「・・・どっかいこか」

 ずっと俺は下向いてて、周りはうるさいくらいの楽しそうな声が響いてんのに、俺だけぽっかり開いた穴に入ってもうたくらい別世界やった。


 まだ、緊張は解けてなかった。





 ―――・・・




「律・・・」



「冗談ちゃうから。・・・ってのは、お友達の好きとは違うって、事で・・・」


 あかん


「・・・そんなふうに・・・思ってたんや、俺のこと」


 迷惑でしかないやん。気持悪がられて終わるのがオチか。


「・・・ご、ごめん。先輩」


「あー・・・なんつうか、男から告白とか、ないから・・・・いや、うん。考えられへんから・・・いや、考えたことないから考えられへんくって・・・」


 先輩困らせるだけやん。分かってたのになんでゆうてん、俺。


「先輩、ほんま、・・・・ごめん。忘れて。・・・忘れ、られへんやろうけど・・・」


 折角の後輩って立場、なくなってまうやん。

 
 もう、終わり


「いや、うん。・・・・律のことは、可愛い弟くらいにしか、考えたことない・・・。」

「せんぱ・・・」


「付き合うとか、できんけど、・・・けど、嫌いじゃないし、こんなことで嫌いにもならん。だから、んな顔すんなって」 


 ありがとう、って気持もやけど、ごめんなさいって気持ちの方が勝ってた。







 俺の話を聞き終えた日下部は、ため息ついた。

「なんでゆうてん」

「わからん。なんか、先輩がおらんくなるって思ったら・・・ゆわんとあかんような気がして」

 後悔しそうやん、このまま会えんくなったら。


「で、今どうなん。気持ち的に。ゆってよかったんか?後悔してんちゃうの」


 わからんよ、そんなん。さっきの話やで?気持の整理もついてへんわ。


「・・・・諦められへん、と思う」


 それだけは、いまのとこ確かな事。


「そか・・・・」

 ポスポスと頭に手を置く日下部。
 日下部なりの慰めなんかな、って。そんなガキのような扱いも今は悪ないなぁ・・・って。




「泣いてええねんで」


「・・・・あほか」






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