短編 | ナノ



05






 澄んだ空をバックに立つ先輩。

 もう、数ヵ月後にはその姿を見ることが出来へんくなる。この学校に先輩がおらんくなる。

 何も、変わらんかった。先輩と親しくなれたとも言い難い。俺はこんなにも先輩のことばっかり考えてるのに、先輩からしたらただの後輩でしかない。

 先輩の中に、俺はその程度にしかとどまらん。

 俺の気持ちに気付いてもらえんと。


 先輩を見てるうちに、感極まって不覚にも泣きそうになった。

 悟られたらあかん。不自然な所見せたらあかんで。


「蒼人先輩・・・」


 名前を呼ぶだけで、幸せやねんて。


「・・・律?」


 名前を呼ばれるだけで俺は幸せ者なんやって。



「先輩、こんなトコで油売ってて大丈夫なん?ましてやそんな格好・・・ネタバレもいいとこやん!」

「良いねんて、宣伝効果も兼ねてるから。明日はこの姿で受付やで?」

「それは冷やかしに行かんと。日下部も連れて」

 先輩が俺の隣に来ると、一緒になってフェンスに身を任せた。風が抜けるたびに先輩の衣装が揺れて、その動きをじっと見つめてた。



「律、お前クラスは?大丈夫なん?」

「時間が時間やから、そんなに賑わってないし。ウェイターなんて女子に任せとけばええねん」

「おいおい、んでこんなところでサボってんの?もったいないことしてんな。折角の文化祭やん、楽しまんと」

 眩しそうに笑う先輩。綺麗にセットした髪の毛が少しだけ風を受けて揺れてた。


「・・・・先輩、今年、最後やな」

 思わず口に出てしまった一言は変にか細かった。
 

「あ?・・・まぁな。なんでお前が寂しそうになってんの」

「あはは」


 ほんまに寂しいよ

 どうしようも出来へん現実が目の前にある

 俺、先輩と同い年やったらもっと先輩の事、知れたかな

 いまより少しでも近かったかな?

 卒業してもずっと一緒におれたかもしれんな


「律?」

「なぁ、先輩・・・」


 今しかないって、そんなふうに思ってたわけじゃない。きっと先輩の事やから俺がメールしたらちゃんと返事くれるやろ?

 でも、やっぱり一番近いって思えるのは先輩が制服着て・・・いや今は吸血鬼やけどな、俺の傍に立ってくれてる“今”やと思うねん




「蒼人先輩。俺な、先輩の事、好きやねん」









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