短編 | ナノ



04








 文化祭当日。

 結局俺のクラスは準備にギリギリまで掛かってもうた。

 教室に並べられた机にはテーブルクロスがかけられて、その上にはメニューや小さな小瓶に花が飾られて。

 教室を飾ると言っても大したことは出来んと思ってたのに、実際に飾り付けてみたらそれなりに雰囲気が出て、クラスのみんなのテンションも徐々に上がっていくのが分かる。


「七井、お前今日は朝からやんな」

 黒いエプロンを配っていた日下部がその一つを俺に放り投げた。

「うん。でも、朝から客くんのか?」

「さあ?思ったより食べ物出してる所が多いみたいやし、ヘタしたら赤字かもなぁ」

 そんな会話をしてエプロンをつけた俺は、かれこれ一時間・・・何をするわけでもなく、ずっと携帯を弄っているわけだが。

「ったく、マジ暇」

 マジこれ赤字やで。

 ぽつぽつと客は入るものの忙しいと言うには程遠くて、俺が出るまでもなく客の相手は女子がしているのが現状。


 エプロンを外すと、こっそりと教室から抜け出した。


 向かうのはもちろん先輩の所。

 が、実際“お化け屋敷”と看板が掲げられたその教室を目の前にして一人で入るんか?という自問自答。真っ暗な入り口に立つ案内係と目が合った瞬間、その先輩の教室から背を向けた。

 ――後で日下部についてきてもらうってことで。

 
 今更先輩に会えなかったからって、自分のクラスに戻るわけにもいかず。かといって一人でフラフラ楽しめるとも思えず、屋上で昼寝でもするかと階段を登っていった。

 屋上には誰もおらんかった。
 高いフェンスから見下ろすと外でやっている模擬店がにぎわってた。こんな時に屋上で時間を潰すヤツなんておるわけないのは当たり前や。皆文化祭を楽しんでるんやろう。もちろん俺もその一人やけど。

 一年の俺にとっては中学の頃とは違う自分達で作り上げる文化祭ってのは想像してたより楽しい。


 ただ、俺にとってのこの文化祭が、先輩にとっては最後の文化祭って事―・・・


 俺が知らんだけで、先輩の頭の中は受験でいっぱいなんやろう。年が明けたら、先輩と顔をあわせる時間なんて・・・どんどん少なくなっていく。

 メールで繋がってたって、そんな脆い関係簡単に忘れられそうやし。

 俺は先輩から一番遠いトモダチ。


 欲を言えば、隣に居たい。でもそんな可能性なんて・・・・・


「・・・ないなぁ」


 ポツリとつぶやいた言葉は澄んだ空に消えていった。


「何がないん?」

 独り言に返事が返って来たことよりも、誰もおらんと思い込んでた屋上に自分以外の声が響いた事に驚いた。
 振り向いたそこには、いつだって会いたくて、会いたくて、たまらん人。


「え?あ、えぇ!?・・・蒼人先輩、ってか・・・その格好!」

 そこには大きい襟に長めのマント、髪の毛は無造作なオールバック。黒尽くめの服装はまるで・・・・

「ヴァンパイア・・・」

「当たり」

「先輩・・・それお化け屋敷の?恐怖感に欠けてるで・・・」

 むしろ、格好良すぎる―――

「惚れるやろ?」

「あはは、ほんまそんな格好してたら、モテモテやん」

 傍まで歩いてくる先輩をじっと見つめていると、その瞳に吸い込まれそうになる。 そんな格好をしてなくたって、先輩は魅力的で女性が離すわけない。実際に何度も女を連れてるところを見たことも、日下部から聞かされた事だって何度もある。

 それでも俺の気持が萎むことなんてなかってん・・・

 初めから叶わん恋やってわかってるから、期待なんてしてへん。

 先輩の彼女に嫉妬の感情を持つこと自体間違ってるんやもん。



 それでも先輩を見るたびに、キュウキュウと音が聞こえそうなほど締め付けられるこの胸は、俺の思考をいつも押し返すほどの力で、何度も何度も折れてしまいそうになる。

 いっそのこと諦めれたらええのになぁ。

 好きやと伝える事さえ出来へんくて、傍に居るには立場が違いすぎる。追いかけることさえ出来てるのかわからん。

 こんな感情捨ててしまえれば楽やのに。

 何度もそう思う度に、俺の胸は啼き続けてる。


 出来へんから、辛いんや。

 それほどまでに、好きやって思い知らされる。





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