短編 | ナノ
02
「だるっ・・・」
学校から一番近いホームセンターで言われたものを買ったのは良いが、ペンキが想像してたよりも重かった。
時間を見れば、すでに放課後といわれる時間帯で、きっと女子はとっくに帰ってるんやろうと思うとため息が漏れる。
学校の門を入ったとこで、見つけた人影に全身が反応した。いや、大げさな事じゃなくって。これはいつものことやけど。
「蒼人先輩!」
思わず駆け寄りそうになるけど、落ち着いて先輩の前に立つ。
「おぉ、律。何してんの」
「買出し。先輩はもう文化祭の準備終わったん?」
「いいや、まだまだ。でも俺は帰れるんや」
「なにそれ」
「ほとんど出来上がってるからな。あとは女子が衣装作り上げるだけやねん。男どもは用なしやー」
笑う先輩。
そうや・・・、俺はこの柔らかい笑い方もどうしょうもなく好きや。
「見てや先輩、これ。俺明らかにパシリ。日下部も忙しいとかで付いて来てくれんかってん・・・」
「日頃の行いちゃうんか?」
「うわーひどっ、先輩までんな事言うんや」
「あはは、律んとこは何すんの?」
「喫茶店。つってもドーナッツとか横流しするだけやけど。先輩は・・・お化け屋敷やったっけ?」
「ようしってんな。色々凝ってるから律も来いよ」
「暇やったら行ってもええかな」
「なんやそのしゃーなしは!」
というか、そんな事言われんくたって先輩の所へは行くつもりでおったけど。日頃あんま立ち寄られへん3年の教室やもん、ここぞとばかりに遊びに行くつもりや。
しばらく他愛ない話をして、先輩と別れて教室に戻るともうクラスの大半が帰宅していて、残っていたのは組み立て班と数名の女子、そして委員長。
「お、お帰り七井」
「お釣り、とコレ」
委員長にお釣りの入った封筒と買ってきた袋を渡すと俺は一目散に日下部に向かう。
「な、な、聞いて聞いて!」
「・・・伊藤さんか。」
「わぁ、なんで分かったん!日下部って天才ー!」
「お前がそんだけ楽しそうにしてる時ってそれくらいしか思い当たらんわ」
黙々と木に向かい、定規を合わせて計っている日下部のすぐ傍にしゃがみこんだ。
「やっぱな、あの笑顔やな。いや、まじ癒された」
「おまえなぁ・・・・」
半ばあきれたように視線を送ってくる日下部に、負けじと笑顔で答えてやった。日下部の言いたいことは分かってる。
「どうしょうもないやん」
「七井・・・」
「ほんまに好きやなー・・・って思う。先輩の事。日下部の言いたい事分かってるって。ってそういうの散々悩んだことやん?」
いたってノーマル、のはずだった。だけど先輩見て、突き動かされた感情ってのはどうしようもなかった。
自分以外の誰かの事で夢中になれるとは思いもせんくって。今までの恋愛がちっぽけやったんやって思えるくらい・・・それくらい。
「叶わん恋、辛ないの?色々回りみてみぃや。きっとどっかにピンとくる女が・・・」
「叶わんとか言うなや。ってか叶えようとか思ってへんわ。先輩と話できたらえぇねんって」
「・・・まぁ、お前の話聞くことは出来る」
日下部は小さくため息を吐きながら「何もしてやれんけど」って笑って、また木に向かい合った。
日下部は、俺のとんでもないカミングアウトを受け止めてくれた。
一目惚れやったから、一時の感情やとか、気のせいやとか、何度も説得されたけど、数ヶ月経っても変わらん俺の気持を知って「本気なんやな」って呟いた。
今でも変わらず実らん恋や諦めろって言われるけど、でも気持悪がらずにちゃんと友達で居てくれる。
それだけで俺の気持は楽になったし、今では良き相談相手やし。誰にも言えんと一人で抱えてたら今頃どうなってたかわからん。
少しでも吐き出す場所があるって、心強いんやで。
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