短編 | ナノ



01







 にぎわう教室で委員長が何かと指示を出す声が響いてて、スペースが足りんくて、廊下にまで色々な道具が投げ出されてた。そしてみんなお祭り騒ぎと言うか・・・興奮を隠しきれん様やった。

 制服を着た者が半分。ジャージが半分。
 そんな俺も汚れ組みでジャージ姿。捲り上げた袖やジャージの裾から出た肌には赤や茶色のペンキがあちこちについてた。

「おい、七井!サボってる暇ないで」

「はいはい。ってか・・・これペンキ無くなってんけど?誰にゆうたらええの」

「知るか、委員長に聞いてみぃや」

「そんな急がんでも大丈夫ちゃうん、まだ一週間もあんのに・・・」

「一週間しかないんや!んなこと言ってるから七井は夏休みの宿題提出で俺に泣きつくんやろが。出来ることは出来る時にやっとかんとあかん」

「へいへい、日下部は相変わらずうるさいな。・・・あ、委員長、こっちこっち!赤いペンキ無くなってん!」


 机は全て隅に寄せて、広くスペースを取った教室の床には大きな看板が数個。その看板に下書きされた鉛筆にそって俺は赤い色を塗っていって、文字をかたどる。

 横では中学からの親友、日下部が金槌片手に木に釘を打ち付けていた。

 俺らが今取り掛かってるのは一週間後に控えた文化祭でやる模擬店の準備。うちのクラスがやるのは喫茶店。最近の洒落たカフェなんてもんじゃなくて、喫茶店。流行のメイドでもコスプレでもない、いたって普通の。白いシャツに黒いエプロン。

 食べ物も近くの大手ドーナッツチェーンのドーナッツと地元のケーキ屋からケーキとクッキーを購入して、それを出すっていう簡単なもの。それに比べ熱血教師が担任やってるクラスはそれはもうかなりの手の凝りようらしい。



「七井、ペンキ買出し行ってきて」

「はぁ?俺!?」

 どこかに消えてた委員長が帰って来たと思ったらこれ。

「えぇやろ?ペンキないと七井の仕事もないんやし暇やろうが。先生からは了解貰ったから、ほらこれ金な」

 渡された茶封筒にはお金が入ってた。結局ペンキ3缶と刷毛、釘にヤスリのお使いに行かされることになった。

「なんやねん、パシリやんけ。ってか俺一人?」

「当たり前やろ、なんや一人でお使いも行かれへんのか」

 不服な顔を委員長に向けたところで、後ろから女子が委員長を呼ぶ声が聞こえて、委員長は「はよ行け」とだけ残して去っていった。

 なんや、委員長機嫌悪いんか?そりゃまとめ役やから忙しいのはしゃーないやろうけど・・・

「な、日下部・・・」

「嫌や。行かん。俺今日これ終わらさな帰られへんねん、一人で行って来いよ」

 6限目を潰して文化祭の用意にあててあるから、時間が来れば帰宅の声が掛かる。文化祭まで残り一週間となると、準備がいまいち進んでいないクラスはかなり遅くまで残って作業をしているらしい。

 俺がやってるペンキ塗りなんて最終工程やから、出来上がったものさえあれば仕事になるし、塗るだけなんて腕次第でなんとでもなる。
 それに比べて日下部がやってる組み立て班は取り敢えず形を作らん限り次の工程にも差し支えるから必死なんや。


「ちぇー」

 ジャージのポケットに封筒を突っ込みながら教室を出ようとすると、委員長から「金落とすなよ」と忠告を頂いた。

 あと「金パクんなよ」とも。






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