短編 | ナノ
07
「はぁ」
宮本の家を出て、ため息ばかりつく。
宮本は俺が成との事を唯一打ち明けた人間だった。男よりも女の方が最近では柔軟な考えを持っているというのは本当らしく、薄々自分が当て馬に使われているんじゃないかって事には気付いていたらしい。
そして、俺は純粋な気持の成に対して疚しいことばかり浮かぶその事を、もどかしい気持を、全て宮本に相談しては背中を押されて・・・
「はぁ。」
背中を押されても、なかなか行動に移せるものじゃない。
そうこうしていると、成からメールが届いた
“今日、ご飯食べに来るよね?”
しばらく、その画面を見て考える。
自分の体の匂いを嗅いで・・・ほのかに香る甘い匂いを確認して、友達の所に遊びに行くことを伝えた。
家で1人、弁当を食べる成を想像して胸が痛んだけど、この香りを成に気付かれたところでまた成を傷つけるだけだ。
風呂入ってから行くつったって何時になるかわからない。それに今日泊まって行けなんて言われたら、理性を保っていられる自信なんて・・・ない。
少しの時間潰しに付き合ってくれそうな友達をアドレスから探した・・・
◇
「尚人、今日はお母さん早く帰れるから成ちゃん夕食に誘っておきなさいよ」
「んー、判った」
玄関を出て、隣の家を見上げる。成はもう学校へ向かったのかもしれない。
キィ、と音を立てて門を閉めると、成にどう声掛けようかなんて考えながら学校へ向かった。
いつも、色々考えるのに・・・
成を前にして口を開けばそっけない言葉しか出てこない。メールだって、淡々とした言葉しか返さない。
もっと話しをしたいと思うのに
もっと成に笑ってほしいのに・・・。
学校で成と話しをするなんて事はほとんど無いけど、今日は学校帰りに弁当とか買って帰らないようになんとか成を捕まえて話しをしなくては、と休み時間の度に廊下に出たり、トイレに行ったりを無駄に繰り返すが・・・
成に会わない・・・。
仕方なく、成のクラスに顔を出し、一番手前に居たヤツに声を掛ける。
「わりぃ、穂高・・・成、呼んでくんない?」
「あーアイツなら今日休んでるぞ?連絡も入ってないし、メールも返事来ないしで・・・河合知ってんじゃないの?」
家隣だろ、と
幼馴染だろ、と
聞かれている気がした。
「そう、ありがと」
もしかしたら熱を出して寝込んでいるのかもしれない。たった一人で。
昔から熱を出せば動けなくなるくらい高く上がっておばさんが病院に駆け込む姿を何度も見てきた。
学校帰りに成に電話をかけようと携帯を開いた。
水分補給と・・・何が食べれるのか、聞いておかないと。なのに携帯から聞こえてきたのは女性の声で電源が落ちていることを知らすアナウンスだった。
「チッ・・・」
携帯をポケットに突っ込み、成の家の鍵が小学生の頃と隠し場所が変わっていない事を願いながら先を急いだ。
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