短編 | ナノ



06





side:尚人


甘ったるい匂いが充満する部屋で

ふかふかのハートの形をした毛並みの長いピンクのクッションを抱えて

ため息をつく。



「・・・ほんと、お前しか居ないんだって」


「ハイハイ」


テーブルにネイル用品を並べ、丁寧に指先に塗られていくそれに集中して俺の話しはそっちのけ。


「ちょ、マジ聞けよ・・・」

「聞いてるわよっ!ってかそのクッション乱暴に扱わないでよね!」


「なぁ、お前だけだから」



ネイルの瓶をクリアケースにしまいながら、彼女も大きなため息をついた。




「ウザイのよっ!なんなのよっ!穂高くんがそんなに好きなら勢いでやっちゃえば良いでしょっ!?」



「だ、だからっ、そんな簡単には・・・」

「このヘタレっ!」

「くっ、・・・だからこうやって相談してるんじゃねーか・・・この事知ってるの宮本だけだし・・・」

「さんっざん、女遊びしといていざ本命が現れたら手が出せない?・・・ましてや付き合ってんでしょ?遠慮してる場合じゃないでしょ。馬鹿じゃない」

「だって成は男だ。」

「わ か っ て る わ よ ー!!!!あぁウザっ!」


「やばいんだって、マジ。アイツと居るともたねぇ。」

「だからいっぺんやっちゃえば良いのよ。
絶対、穂高くんだってそれなりの覚悟をした上での告白だったはずよ?なのに尚人はそれをこうやって逃げてきて・・・最低だよ」

「う・・・。」


そうだ、最低だ。

昨日だって成と一緒に夕食を食べた後、普通だったら親も居ないし、風呂入って、泊まってったって良かったのに早々と帰った。

成の顔見りゃそれを望んでなかったのは判ってんだけど・・・


こう、風呂上りの姿想像したら
一緒に風呂入ったり・・・とか妄想して
泊まるのって一緒の布団で寝るのか?とか

・・・そうやって考え出したら止まんなくなって

やばくなって

逃げて帰ったようなもの。


女ならそのまま勢いだってアリなんだけど・・・

なんでか、成だけにはそんな勢いとかじゃいけない気がして・・・どうして良いかわからない。


男同士のセックスがどういうものかも判っているけど、それが受ける方にしたらどれだけの辛い事かなんて・・・同じ男として想像しただけで萎える。

成に辛い思いさせたくなんてないけど
俺の欲望はとどまりそうにない


なら、危なくなる前に、成を襲ってしまう前に、距離を置くまでで・・・


「はぁ・・・」

「ちょっと、そろそろ帰ってくんない?彼氏でもない男をこんな時間まで部屋に置いときたくないのっ」

「あぁ、悪いな。・・・・・・宮本、この部屋の甘い匂い何とかしろよ、成が気にするんだ。・・・じゃあな。」

「はぁぁぁっ!?尚人が家に来るのが悪いんでしょーがっ!ほんっと自己中!」

扉を閉める瞬間にピンクのハートのクッションが投げられるのが見えた。

閉めた扉からボン、と音が聞こえた。





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