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LALALA
05











学校のざわめきを暑苦しいな、と思いながら自分の席に向かう。
窓際の席まで、教室を縫うように歩いていると、声をかけてくるのは友達の翔吾だった。

「洸祈!」
「あぁ、はよ」

俺よりも十センチ近くでかい翔吾は俺と似たような明るい頭をしている。
制服にTシャツを合わせている翔吾はたまにびっくりするぐらい派手なシャツをチョイスしてくる。

「相変わらず滑り込みだな」
「うっせーよ、なんで蛍光ピンクのシャツだよ。どこに売ってんのそんなの」
「大丈夫だ、脱ぐと黒の面積が多いんだよ」
「大丈夫じゃねーよ馬鹿」

何も考えずに笑えてるのは省吾の前だけかもしれない。

双子の俺たちは昔からどうしても共通の友達が多かった。双子だと言う事をきっかけに声を掛けて来るやつも中には居たから。
光流は人付き合いも上手かったし、人懐っこい性格だと言う事もあって、俺に友達が出来ると自然と光流にとっても親しい友人へと変わっていくのだった。

そんな中、高校へ上がって一番に出来た友達の翔吾は今のところ光流とはそれほど親しくもなく、そして唯一の俺の心情を理解してくれるヤツだった。
と言っても、俺が翔吾に何を言ったわけでもなく、翔吾が勝手に俺の事を推察しているんだけど。
それれでも今の俺には、友達らしい友達は省吾だけだった。

「ほらほら、一限いきなり英語移動だぜ。急げよ。ギリギリ登校とか無理してやってっから」

ニヤニヤ笑う省吾にうっせぇ、と言いながら一限の教材を放り投げた。
ブレザーを椅子に掛けて、カバンを置いてから省吾と教室を出ていく。

周りは光流に対する反発から俺が堕落した生活を送っているのだって思っているだろう。 しかし俺が実は普通に勉強すればそこそこ成績を残すことが出来る事も、日頃の生活だって5分前行動が基本の俺だってことに翔吾だけは気付いている。俺が頑張った所で到底光流に敵わないことも翔吾はもちろん。
だから事あるごとに無理はするなと言葉をかけてくれる、ありがたい友達。

そんな翔吾でも、俺の知らない部分がある。
陽輔という幼馴染が居て、光流の代わりに抱かれていること。俺の反発がそこから来ていること。

相談しようなんて思わない、何より言うつもりなんかもちろんない。ただこの息苦しい毎日で少しでも酸素が吸える場所があるならそれで良いから。ただ、俺の友達で居てくれたらそれで良い。


「上野洸祈、早く席に着け」
「…はぁい」

教師は翔吾の後ろを歩く俺に一声かけると、直ぐに授業が始まった。いつだって双子の俺たちはフルネームで呼ばれる。
翔吾が後ろの方の空いてる席を陣取り、そのすぐ隣に座った。

「あぁ、それと今日時間があるときに職員室に来なさい」
「えぇ!?」
「分かっているだろ、自分の英語力がどの程度か」

そう言われれば、この前の小テストは最悪だった。
陽輔に本気で勉強を教わろうと家に行ったのに、まじめに勉強している俺の姿がいつになく光流に見えたらしく、散々嬲られたんだ…それで勉強どころじゃなかったし、翌日の体調も気分も最悪だったしでテストどころじゃなかった。
盛大な溜息をつくと、横から翔吾には馬鹿にされた。


昼休み、翔吾と食堂で簡単に食事を済ませると職員室に向かう。コーヒー片手に雑談している英語教師に声を掛けると「おぉ」と言って灰皿に置きっぱなしになっていた煙草の火を消した。

「で、こないだのテストの事っすか?」
「あぁ。どうしたんだいくら上野でもあれはヒドイだろ」

教師は何をするでもなく、視線は自分の机に向けたままだった。
俺の反応を待っている。

「眠くって、頭回らなかったっす」
「日頃から授業受けてたら何とかなる問題ばかりだ、眠くたってもう少し点取れるはずだろ。おまけに最後のほうは手もつけられていなかった」

あぁ、あまりの眠気に最後は本当に寝てしまったんだった…。

「前日寝かせてもらえなかったんっすよ、オンナがねしつこくて、ふふ」

半分は本当だけど、冗談だと笑ってそんなこと言っていたら、先生は机をドン、っと叩きコーヒーの入ったカップが揺れた。

「上野っ!いつもそうやってヘラヘラ笑って見逃してもらおうなんて思うな。こっちは不快だって分かっているか!?色んな先生がお前の事を気にかけているのもわかっていないんだろうが!」

 光流の片割れだからって、肩身の狭い思いをしているんだろうって…そんな先生達の憐れみを含んだ気遣い。

「なぜ真剣に聞けない?少しはお前…」
「そういうの、いいんで。こっちからお断りしたいくらいです」

言いたいこともよく知っている。
中学生の頃は耐えられないと思っていたことも、今では流せるくらいには成長した。

「上野洸祈っ!」

話しは終わっていない、と言っている先生を振り返ることなく職員室を出た。
いつだって、俺は何も頼んでなんてない。勝手に要らない気を使って、どんどん俺の世界を狭めていくのはあんた等、教師だ。

「…ほんとに、良い迷惑」

聞く耳持たない俺に苛立って、言葉での攻撃をしてくる。
最後に出るのはいつも光流という単語だってことももう飽きた。

「洸祈?」

名前を呼ばれて顔を上げると、俺と同じ顔がそこにあった。






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