LALALA | ナノ



LALALA
04






部屋の扉を叩く音に浅い眠りから引きずり上げられた。

「――洸祈、洸祈…寝てる?」
「……、今、起きた」

果たして俺の声は扉の向こうに聞こえているのだろうかは定かではない。

「洸祈、飯食えよ。母さん困ってるぞ、片付かないって」

のそりと体を起こして扉を開けると、風呂上りらしい光流の姿があった。廊下の光が寝起きの目にはまぶしい。

「あぁ、下りるわ・・・」
「制服で寝てたのか?」
「んー即寝。頭使いすぎたみたい」

そう言って笑って返せば、同じ顔した光流も穏やかな笑顔を見せる。
同じ顔といっても、光流の方が少し凛々しい印象を与えて、秀逸な中身なだけに、見た目までも変わってしまうのかと思えた。
小さい頃は本当に見分けが付かないと言われ続けていたのに。

階段を下りてリビングに向かうと、両親ももう寝室に向かったのか、誰も居なかった。
テーブルに置かれたラップの掛かった俺の夕食らしき物だけがポツリと置かれていて、それを引き寄せて椅子に座る。
食べ物を機械的に口に運んだ。

いつだって陽輔と体を重ねた後は色んな思考が巡って、全てに疲れてしまったような感覚で食欲なんて湧かない。
一度だけ「陽輔の所で食べてきた」なんて嘘を言った事があったけど、お礼の電話だとか言い出した親に、それ以降その手は使わなくなった。

時計を見ると23時を指していた。さっさと風呂に入ってしまわないと、なんて思いながら、流し込むように食べ終えた食事の片づけをする。

「洸祈?ご飯食べたの?」
「んー」

キッチンの物音で出てきたのか、後ろから掛かる母親の声に生半可な返事を返した。

「いいわよ、そのまま置いておいて。明日洗うから」
「んー」
「早くお風呂入ってしまいなさい」
「あぁ」
「もう、ちゃんと“はい”って言いなさいよ、癖になるわよ。いつもへらへら笑って、少しはしっかりしなさい?」

小学生に入ったあたりからよく言われる言葉だった。
もう母親も俺には言い飽きただろうに。

「ん、光流みたいにって?」
「光流になれとは言ってないのよ、もうほんとに…中身も少しは似てくれたら、ねぇ?」
「そうだねー。俺風呂行ってくんね」

母親とのこんな会話は常日頃からだ。お互い気まずくも悪気もない。
えへへ、と笑う俺にまた母親はあきれた顔をした。
何を言ったって無駄だって分かっているのに、やっぱり母親はそうやって気にかけてくれているんだ。
優しさだって、分かってるけど。

母親に何を言われたって、変われる気がしないのは昔からだ。
期待に応えたって、無理をすればどこかで裏切る事になるだろう。

母さん、俺は男と寝てるんだよ。
そんな俺に期待しないで。
期待は、全部光流に注いでやって。
光流なら、応えてくれるはずだから。
初めから、光流と一つなら良かった。
なら、陽輔は俺も愛してくれたはず、俺もちゃんと陽輔に好きだって言えたのに。
そうすれば、男同士だけど思い合えたのに。
光流の才能が欲しいわけじゃないけど、俺と一つだったら、ちょうどいい人間が出来上がったんじゃないかって思う。

俺が光流でもダメだった。
光流が俺でもダメだった。
きっと、きっと俺が洸祈である理由があるはずだって――
昔よくそう思うようにしていた。
俺にも何か特別があるんだって。

そしてまだ、それは見つかっていないけど…。





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